日本人はビジョンと戦略が苦手 
~トランプ前大統領と日本の共通点~

大学時代に所属していたゼミが運営しているFacebookのグループにて、恩師の村田先生が新書を出されることを知った。大学のゼミや講義でお世話なった時のことを思い出し、懐かしくなり早速購入した。

書籍はアメリカの内政や外交について書かれていたが、私が感じている日本人や日本企業の問題の本質と共通する内容にも触れられていた。

今回は日本人や日本企業が苦手な、『ビジョン』と『戦略』について考えます。

 

目次

トランプ政権は状況対応型

今年の1月20日バイデン大統領に代わるまでアメリカを率いていたのは、ドナルド・トランプ氏でした。2016年の大統領選でヒラリー・クリントン氏と戦い、大方のメディアの予想を覆して勝利し2017年に第45代アメリカ合衆国大統領に就任しました。

トランプ大統領は在任中、矢継ぎ早に様々なことを決め我々を驚かせたことは、未だ記憶に新しいのではないでしょうか。トランプ政権の外交について、書籍では以下のように評価しています。

トランプの行動は状況対応型であり、単発の行動が次につながらない。一つには、トランプ政権には追及すべき利益はあっても、語るべき理想や理念がないからである。利益の集積から戦術は生まれても、理想や理念がなければ戦略は編みがたい。それでは衰退論に歯止めをかけられない。

トランプvsバイデン 「つめたい内戦」と「危機の20年」の狭間 村田晃嗣

『アメリカファースト』を掲げ当選した政治経験のないビジネスマンのトランプ元大統領は、これまでの戦略的な他国との関係や流れを軽視し、テーマ別、国別の個々の交渉を通して自国の経済的利益の最大化に向けたディールを積み重ねてきました。個々の交渉における駆け引きは上手かったかもしれませんが、全体的なストーリーや中長期視点(戦略)が欠けていたために、アメリカの復活というビジョンの実現にはあまり繋がらなかったのでしょう。

一方今年一年間アメリカを率いてきたバイデン大統領は政権発足当初支持率は高かったのですが、アフガニスタン駐留米軍の撤退劇や新型コロナウィルス変異株への対応などもあり支持率が急激に低下しました。トランプ氏とバイデン氏、どちらが良いというのは見方によって変わるので難しさがあります。

 

日本企業もトランプ型の対応スタイル!?

外からトランプ元大統領の言動を見ていると、場当たり的な対応だと感じていた人も多いのではないでしょうか。一方様々な日本企業において経営戦略や中長期計画、改革活動などに関わっていると、日本企業が抱える本質的な課題と共通しているように感じます。

最近少しずつ変わってきているようにも感じますが、多くの日本人や日本企業は理念やビジョンを軽視したり、避けています。流行りのDX(デジタル・トランスフォーメーション)も、本来はデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革(事業ビジョンの実現)することが目的ですが、デジタル技術やデータなど手段にばかり注目されているように感じます。

掲げたビジョン(≒目的)に向けて、どのように実現していくのかのストーリーが戦略です。そしてストーリーを進めるために重要となるテーマや目標を定め、その達成に必要なプロジェクト(活動)や作戦を計画し、進めて行く。個別のプロジェクトや作戦を上手く進めて行くのが、戦術です。トランプ外交でいうと、個別案件に対してどう自国に有利な条件を引き出すかのディールが戦術でしょう。

戦略と戦術の関係性

ビジョンがないと現状の問題や改善を繰り返すことに集中せざるを得ず、結局個別最適に陥り企業としても国家としても継続的な成長が難しくなるのです。

そのうえ日本人は、『やること』と『やらないこと』の選別も苦手です。企業の経営者や社員が策定した戦略をみせてもらうと、現在取り組んでいる活動を詰め込んだ総花的な計画が出てくることがあります。人も企業も時間やお金は有限なので、『やること』に集中するためには『やめること』も決めないといけません。ただ日本人はサンクコスト(埋没費用)の意識が低かったり、責任を回避したいという心理的作用もあり、やめることが苦手です。『やらないこと』が明確だったトランプ元大統領とは、異なる点でもあります。

 

待望でなく、欲望でなく、願望でなく、希望を掲げよう

日本人がビジョンや理念を掲げるのが苦手な理由の一つに、『希望』を上手く捉えられていないことがあると思っています。つまり『主体性』と『公共性』、『現実性』を欠いたビジョンや理念が多く、絵に描いた餅になり関係者の共感が得づらいということです。

書籍ではこれからの日米関係について、『希望』という言葉を使い以下のように書かれていました。

希望は待望と異なり、主体性を要する。希望は欲望と異なり、公共性を要する。そして、希望は願望とも異なり、現実性を要する。「懸念される10年」や「危機の20年」の中にあって、日米両国はともに、この主体性と公共性と現実性を保持していかなければならない。

トランプvsバイデン 「つめたい内戦」と「危機の20年」の狭間 村田晃嗣

社員を含めたステークホルダーの共感を得られることが、企業のビジョンや理念には求められます。そのためには、企業や社員自らが主体性を発揮する姿勢が必須です。いつかカリスマ経営者が出てきてどうにかしてくれるというリーダー待望論ではなく、自分たちがどうするという意志が大切です。

また企業や社員、株主など一部の人たちの欲望ではなく、社会(公共)とのバランスを考慮したものにしていくことが求められています。もはやSDGsやESGが大前提となっていることも、当然の結果でしょう。

ビジョンはある程度、大きな夢を語ることが大切です。現状の延長にある平凡な目標では、誰もワクワクしないでしょう。一方外部環境が急激に回復するなど、希望的観測で策定されたビジョンでは実現までの道筋(戦略)も描けず、誰も信じてくれないでしょう。最後は神風が吹いてくれるという願望では、共感を集められません。

 

他者を通して自分を知ることの大切さ

今回はアメリカという他国を見ながら、日本人や日本企業について考えました。書籍でも他国を通して、日本について考えることの大切さを伝えています。

「一つの国(祖国)についてしか知らない者は、実はその国についても知ってはいない」と、19世紀フランスの思想家アレクシス・ド・トックヴィルは喝破した。まさにアメリカは日本の鏡たりうる。アメリカ社会を覆う分断や不寛容は、すでに日本社会にも浸透しつつある。トランプを嗤うエリートやインテリが、時としてトランプ以上に排他的で不寛容であることは、アメリカも日本も同じである。保守もリベラルも狭量になっている。

トランプvsバイデン 「つめたい内戦」と「危機の20年」の狭間 村田晃嗣

これまでの歴史の流れからアメリカという国について理解を深め、そこから自分自身を考えるヒントを集めてみては如何でしょうか。