世界最高のチーム作り 
~日本にこそ必要な『心理的安全性』~

目次

生産性が高いチームは、心理的安全性が高い

『心理的安全性』という言葉を、聞いたことはありますか?

心理的安全性とは、組織行動学の研究者である米・ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した言葉です。Googleが2016年に『生産性が高いチームは心理的安全性が高い』という研究結果を発表したことにより注目が高まりました。

Googleで人材開発に関わったピョートル・フェリックス・グジバチ氏が書いた書籍『世界最高のチーム』では、チームの生産性と心理的安全性について以下のように説明されています。

「生産性の高いチームの特性」を紹介しましょう。それは次の5つです。
 ① チームの「心理的安全性」(Psychological Safety)が高いこと
 ② チームに対する「信頼性」(Dependability)が高いこと
 ③ チームの「構造」(Structure)が「明瞭」(Clarity)であること
 ④ チームの仕事に「意味」(Meaning)を見出していること
 ⑤ チームの仕事が社会に対して「影響」(Impact)をもたらすと考えていること
(中略)
心理的安全性とは、端的に言えば「メンバー一人ひとりが安心して、自分が自分らしくそのチームで働ける」ということ。(中略)要は、「安心して何でも言い合えるチーム」が心理的安全性の高いチームなのです。これが②~⑤の土台になっています。

世界最高のチーム ピョートル フェリクス・グジバチ

日本人的な感覚からすると、優しい上司や定時内勤務、クビにならず会社も倒産しない生涯安泰などをイメージしてしまいますが、ぬるま湯ということではないのです。

 

察する』文化の日本にこそ、心理的安全性が必要

ハーバード大学やグーグルなどアメリカが取り上げていますが、日本社会においても心理的安全性は大切です。臨床心理学者で文化庁長官も務められた河合隼雄氏は、1992年に出版した書籍『子どもと学校』において、以下のように言われています。

教師は生徒がすべて自分の懐のなかにいることを期待して、自由を許さない。日本文化では「察する」ことが大切である。このことはもちろん良い面もたくさんもっているが、悪い方に傾くと、ホームルームなどで生徒が「ハイ、ハイ」と手をあげて極めて積極的に発言しているように見えながら、全てが先生の気持ちを「察して」発言している、ということになる。たまに、自分の固有の意見を言うと、(中略)クラス全体の圧力によってそれは封殺されてしまう。(中略)
「間違ったことが言える」授業という表現があったが、これは、生徒たちの発言の自由さを端的に表している。(中略)先生の気持ちを「察して」代弁しようとしたり、「正解」を覚えこんできて発表しようとしたりしていない

子どもと学校 河合隼雄

子供の時から先生や親など周りの期待を察して言動してきた優等生と言われる人たちは、社会人になってからもこの習慣が続いているのではないでしょうか。特に歴史のある企業に関わらせていただくと、良かれと思い自分の成功体験や考え方を部下に押し付けている管理職を目にします。その管理職がいるチームを見ていると、上司の期待に沿った言動をしている優等生タイプの人が高い評価を得ている印象があります。

 

オールド・エリートからニュー・エリートへ

ピョートル氏はポーランドの出身ですが、2000年に来日し日本での豊富な経験を持たれています。また独立後に様々な企業と交流され、日本企業に対する洞察は共感するものもたくさんありました。

ピョートル氏は書籍のなかで、日本の大手企業で管理職が現場の自発的な言動をむやみに止めようとするのは、『オールド・エリート』の管理職が社内の主流派になっていることが原因だと言われています。

オールド・エリートとニュー・エリートの比較表 
出典:世界最高のチーム (ピョートル フェリクス・グジバチ)

チームをリードする管理職がオールド・エリートからニュー・エリートに変わらないと、部下としては自由に自分の意見を表現することは難しいでしょう。私はオールド・エリート的な意識を持っていることを自覚しつつ、ニュー・エリートの姿勢に変わりたいと日々格闘中という段階です。

日々成長するためには新しい知識やスキルを身に着けるだけなく、時代遅れのやり方や考え方を捨てることも大切です。まずは自分のなかの、時代遅れの部分を自覚することから始めましょう。

 

ゴールを決定できない日本企業

ピョートル氏は書籍のなかで、日本企業の管理職(経営者)はチームのゴールをはっきりと決めないまま、仕組みやシステムを導入していると言われています。そしてゴールを決められない原因を、以下のように述べています。

では、なぜ日本企業のチームマネジャーは「ゴール」を決定できないのか。それは、自分たちが生み出そうとしている価値が何なのかわかっていないからでしょう。だから、その価値に対して自発的に考えることも行動することもできない。
つまり、業務の仕組み化の前に変えないといけない「マインドセット」の問題があるわけです。にもかかわらず、外から借りてきた仕組みだけを取り入れたらうまくいく、生産性が上がると考えているビジネスパーソンが多いのはどうしてなのでしょうか。

世界最高のチーム ピョートル フェリクス・グジバチ

私も同じ問題を感じています。売上や利益など財務数値の目標がある企業や組織は多いのですが、それだけではどのような業務や人材が必要なのか具体化ができません。

とてもシンプルな例ですが、以下の問いを考えることから始めてもらうこともあります。

  • どのような顧客に対して、
  • どのような『価値』がある製品やサービスを提供し、
  • 顧客がどのような状態になることを支援したいのか。

チームの目的であるゴールは、チームのメンバーが理解・共感できるように定義し、チーム運営の拠り所にすることが重要です。そして本当に理解・共感してもらうには、メンバー一人ひとりが疑問や異なる考えをぶつけ合い、より腹落ちできるものに共同で形成していける環境としての『心理的安全性』が大切なのです。

 

心理的安全性やチームのあり方、管理職(マネジャー)の役割などに対して興味を持たれた方は、Googleが調査内容を公開しているウェブサイトや、今回紹介した書籍などを読まれてみては如何でしょうか。