共同体を再構築し、人間らしさを取り戻そう
~宮台真司氏×藤井聡氏の対談より~

目次

我々の想像力や感受性はどこに?

街中やニュースで、他人に対する配慮を欠く言動をとる人を見ることが増えました。特に自分が顧客という立場なのをいいことに、高圧的な態度を取ったり、暴言を吐いたりといったカスタマー・ハラスメントは目に余ります。自分の言動により相手がどのような気持ちになるのかを想像すると、とても行動には移れないと思います。

また色々な会社の人たちと交流する中で、気になることがあります。異なる部門や組織の人たちに集まってもらい議論をすると、お互い自分の立場や利害に固執して議論がかみ合わないことが増えました。同じ会社や組織に属し、共通した目標の実現に向けて協力する仲間という意識が低下し、自分や自部門以外は他人という雰囲気さえ感じます。

私はこれらに共通する原因の一つに想像力や感受性の低下があり、根本には教育の問題とともに『他者との繋がり』の弱まりがあると考えています。具体例として、大都市への人口集中による地域コミュニティや拡大家族(三世代や親族含めた共同体)の崩壊、そして単身世帯や夫婦のみ世帯の増加、家族制度の崩壊などが挙げられます。

ストレートな物言いが有名な宮台真司氏と藤井聡氏のお二人が対談された本を読んでいると、私の問題意識と繋がる話が展開されていました。今回は書籍を紹介しながら、人との繋がりという人間らしい感情をどのように取り戻すかを考えます。

 

他人への関心をなくす日本人

今の日本人は、アカの他人について配慮する意欲を持ちません。(中略)昔は地域共同体があり、それに支えられて家族共同体もまともだったので、デンバー数(安定的な社会関係を維持できる人数の認知的な上限)である50人から150人規模の「仲間」がいました。(中略)そんな「仲間」の感覚の想像的な延長上で、見ず知らずの人が困っていたら配慮すべきだと思えました。それが「仲間」の感覚の想像的な延長線上で「世間」を意識できたという意味です。(中略)ところが、今は共同体が空洞化して「仲間」の感覚が消え、その想像的な延長もなくなりました。

神なき時代の日本蘇生プラン 宮台真司・藤井聡 

都市への人口流入が激しくなり地域や家族という共同体が空洞化し、また本当の意味での仲間(親友・友人)もいなくなり、自分以外への関心が著しく低下してしまった。それにより、他者に対する想像力や感情(感情的能力)が弱くなっていると解説されています。

 

民主主義と資本主義の前提にあるモノ

これまで普遍的価値観と信じられてきた民主主義や資本主義に対して、感情的能力の低下が混乱をもたらしています。

ジャン=ジャック・ルソーにまでさかのぼれば、人々に共同体の個々の成員たちを「想像することができて」「気にかけることができる」感情的能力―ピティエ―が備わっている限り、民主主義は良い帰結を生みます。同時代のアダム・スミスが「人々に感情的能力が備わっているときにだけ、市場は良い帰結を生む」としているのと同型的です。政治においても経済においても人々の感情的能力が基盤なのだというわけです。

神なき時代の日本蘇生プラン 宮台真司・藤井聡 

民主主義や資本主義に代わる制度は、現時点ではありません。そこでこれら制度の前提となる、人々の感情的劣化を手当てする必要があると言われています。その方法として、感情的能力を醸成する共同体の再構築について議論されています。

※アダム・スミスについては、以前ブログ『幸せな社会のカギは共感力 ~SDGsの先に目指すもの~』でも紹介しているので、そちらも参考にしてみてください。

 

共同体の構築には対話と包摂

書籍(対談)では藤井氏の専門である『街づくり』をテーマに、共同体構築のポイントが議論されています。

「参加」を促していくことで、賛成派や反対派といった住民同士の分断、あるいは行政があらゆる住民の関与を促し、対話を重ねていくことで、「包摂」を目指していきます。ただしその包摂のプロセスで大切なのは、各人が自分自身の立場に固執しないで、みんなの立場から物事を考えるように、議論を持って行くことです。(中略)人々の意思決定のフレームを「利己的フレーム」から「倫理的フレーム」に転換していくような、そんな態度変容を促す議論の展開が必要なのです。

神なき時代の日本蘇生プラン 宮台真司・藤井聡 

つまり他者との繋がりによる広い範囲で共同して目指す姿を共に考え、実現に向け他者を意識することにより、共同体の再構築や包摂を目指す。共同体を感じられると、自然と他者への関心が高まり、想像力や感受性も高まるのです。

これは会社などの『組織づくり』にも当てはまります。業務や事業を変革するには、各部門や担当者の範囲で検討しても効果は限定的です。組織全体や、社外ステークホルダーも含めた業界や社会全体から考える必要があります。個人や部門個別で見ると業務負荷や業績が悪化することもありますが、全体の視座から変わることの必要性を理解・共感してもらわないと変革は進まないのです。またこれにより自己と他者との関係性も明確になり、自己の言動が他者へどのように影響するのかの想像力も働くようになります。

 

人間らしい感情を持てる、幸せな将来に向け

いきなり日本全体に対して、共同体意識を高めることは困難です。たとえ素晴らしいリーダーがいても、一緒に実現していく我々の感情的能力が必要だからです。人間らしい感情を高めるために、家族や地域、学校や会社などから共同体としての機能を取り戻すことが第一歩です。相手を想像しやすいところから始めるのが、感情を取り戻す近道ではないでしょうか。

子供を通じて、地域コミュニティ(町内会や子供会)との繋がりも増えてきました。また様々な企業における支援を通して、様々な組織の共同体意識を高める活動も継続できそうです。

将来多くの人が他人に関心を持ち幸せに暮らせる社会に向け、2023年も自分がやれることを継続していこうと思います。