日本の成長を阻害する要因 
~ゼロリスク症候群~

目次

東京オリンピックを振り返ろう

オリンピックに続きパラリンピックも終わり、TOKYO2020は全日程を終えました。
実施したら終了ではなく、今回の経験をしっかりと振り返り今後に繋げていくことが大切です。

様々なメディアでも振り返り記事や評価(批判?)記事が多く出ていますが、Newsweekで興味深い記事を見つけました。

人間は何かを行う前に、「チャンス」と「リスク」を秤に掛けて判断する。東京五輪では、選手が国民に感動を与えることがチャンスで、試合場の選手団や観客から新型コロナウイルスが広がるのがリスクである。しかし、テレビや新聞はリスクだけを報道し、秤にかけるような議論は進まなかった。(中略)
これから日本は五輪の経験を生かして、何を変革していけばよいのだろうか?まずは、自分の脳の中にチャンスとリスクの秤を用意して、自分の論理で判断することが大事だろう。くれぐれもワイドショーであおられた話を簡単に信用して、リスクを過大評価してはいけない。また、議論した後で面倒になり、「何も変えない」という不作為を選ぶこともやめるべきである。

Newsweek記事『ゼロリスク信奉をやめる時』 中尾政之

 

日本人の秤は支点が偏っている!?

日本人がチャンス(メリット)とリスク(デメリット)を客観的に評価して、物事を判断することが苦手だということについては同感です。

原因の一つに、極端に失敗を回避しようとする心理がリスクを過大評価してしまっているのではないでしょうか。

支点が偏った秤

紹介した記事では日本人の特性について、以下のように書かれていました。

筆者らは、20年近く「失敗学」と称して多くの失敗を分析してきた。そこで分ったことだが、日本人の中には感情的な「ゼロリスク」信者が多く存在する。ゼロリスクは「安心」とも言い換えられる。安心の達成レベルは人それぞれで異なり、いくら説明しても絶対に安心できない人もいる。

Newsweek記事『ゼロリスク信奉をやめる時』 中尾政之

ゼロリスク信者という言葉を初めて見たのですが、我々日本人の心理を突く上手い表現だなと感じました。

 

戦略策定の支援をする際に、複数の案(選択肢)を比較検討して意思決定を迫ることがあります。
その時には複数案に対してプロコン(PROs/メリット & CONs/デメリット)を整理し、意思決定を依頼します。

プロコンによる比較表のイメージ

企業文化や業種にもよるのですが、一般的な傾向として日本企業の場合メリットが大きくてもリスク(失敗の可能性)があるものを避ける傾向が強いです。
「うちの会社は、石橋をたたいても渡らないんです」という日本企業おなじみのセリフも、色々な企業でいまだに耳にします。

ゼロリスク信者にとって、リスクは避けるべき対象なのでしょう。

   

ゼロリスク信仰の原因

日本では学校でも会社でも評価を行う際に、減点主義が取られることが多いです。

学校のテストでは全部正解すると100点満点が与えられ、問題を間違える毎に減点されていきます。
会社ではいくら成果や業績を上げていても、たった一つの失敗や失言で出世街道から外されるということが、いまだに行われています。

そのため少しでも失敗するリスクがあることについては、極端に避けようとする心理作用が働きます。

 

親の過保護により子供時代自ら物事を判断する機会がないまま育った人も増え、自ら判断する経験がないために、冷静で客観的な判断が出来ず、見え辛いリスクを極端に嫌う傾向も強まっています。

日本における極端な平等主義により、誰かが犠牲になるリスクのある選択肢を忌み嫌う傾向も、ゼロリスク信仰を強める原因になっているのでしょう。

その他、ゼロリスク信仰の原因になっていそうな日本人の特徴を挙げると、きりがなさそうです。

  

ゼロリスク信仰が成長を阻害する

ではなぜ、ゼロリスク信仰が問題なのか?
ゼロリスク信仰が及ぼす影響のなかで、私が一番問題だと感じていることは『成長を阻害』しているということです。

リスクを極端に回避すると、今できることや現状の延長にあることを継続しようとします。
そうすると、今は出来ない新しいことに挑戦することもなくなります。

またゼロリスク信者にとって、失敗は憎むべき悪であり、存在してはいけません。
そのため失敗が発生した場合、その失敗をなかったことにしようと隠したり、見なかったことにします。
多くの企業で発生している不祥事の根本原因には、減点主義やゼロリスク信仰が存在しています。

 

人が成長するためには自分が行った結果を客観的に振り返り、よかった点(Keep)、悪かった点(Problem)を挙げて、次(Try)につなげていくことが必須です。

KPTの説明とibgノート

振り返りをするためには失敗を受け入れる姿勢が必要なのですが、ゼロリスク信者にとってはどうしても避けたい行為なのでしょう。

企業改革の支援を行うなかで『定期的に振り返りをしましょう』と言っているのですが、なかなか受け入れてもらえません。
これも、ゼロリスク信者による抵抗なのかもしれません。

 

失敗を振り返り、大いに学ぼう

紹介した記事を書いている中尾政之氏は、失敗学会の副会長をされているそうです。
この失敗学会の設立趣旨は、以下のように書かれていました。

特定非営利活動法人「失敗学会」は、広く社会一般に対して失敗原因の解明および防止に関する事業を行い、社会一般に寄与することを目的とする。

失敗学会のHP

失敗学会という組織があることに驚いたが、『失敗知識データベース』を作り過去の事故を分析して考察に纏められているのには、さらに驚かされた。

以前ブログで紹介した『失敗の本質』は戦争を振り返ることにより、日本企業や日本人がどのように世界で勝ち残れるかという学びに繋げている。

我々は東京オリンピックや新型コロナ対応だけでなく、東日本大震災など多くの失敗経験を持っている。
失敗を覆い隠してしまうのでは、その失敗によって生じた多くの犠牲に対して申し訳が立たないのではないか。

 

日本がこれからの世界を生き抜いていくためには、ゼロリスク信仰を捨てて過去の失敗に向き合い振り返る。
そして振り返りにより成長していくことが、必要だと強く思います。