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日本が考える成長の二本柱:グリーンとデジタル
菅総理は日本経済の成長の原動力に、『グリーン』と『デジタル』を考えています。
2021年1月の菅総理による施政方針演説でも、述べられています。
ご興味のある方は、こちら(第二百四回国会における菅内閣総理大臣施政方針演説)からご覧ください。
バズワードで本質が見えなくなる
政府が方針を打ち上げるとメディアや巷にバズワードが登場し、本質が見えなくなるのは悪いパターンですね。
デジタルで言うと『DX』がメディアでも企業でも流行り、関係ない活動にも『とりあえずDXをつけておけば、社長決済は通る』などという声も耳にします。
グリーンに関しては、グリーン社会、カーボンニュートラル、サステイナブルな社会、SDGsなど、横文字が踊っています。
どれだけの日本人がグリーン社会と言われて、具体的なイメージを持つことができるでしょうか。
具体的なイメージが湧かなければ、共感は生まれないでしょう。
戦略の土台となる価値観で差別化を図る
菅総理の演説ではグリーン成長戦略実現に向け、国内外の投資を呼び込むことがうたわれています。
戦略は大切ですし、企業活動(投資)には資本主義的なメリット(減税、金融市場等)を示すことも必須です。
ただ施策だけでは日本の独自性は低く、容易に他国に真似されてしまうでしょう。
そこで重要となるのが、日本がこれまで培ってきた『自然との共生』という価値観(自然観)ではないでしょうか。
他国との差別化に加え、我々日本国民がグリーン社会を実現したいと共感するためにも、自然観は大切です。
日本の自然観を世界に説いた岡倉天心
日本人独自の美意識を、世界に対して英語で発信したのが岡倉天心(覚三)の『茶の本(The Book of Tea)』です。
青空文庫にも日本語訳版で、公開されています。(ご興味のある方は、こちらからご覧ください)
私のように読書に慣れてない人には、少しとっつき辛いかもしれません。
そんな人におすすめなのが、NHK 100分de名著ブックス『岡倉天心 茶の本』(大久保喬樹)です。
番組の紹介は、こちらのサイトにあります。
天心が批判した欧米の近代化とは
100分de名著ブックスのなかで大久保喬樹氏は、人間中心的な欧米の近代化に対する天心の考えを解説しています。
花を擬人化して呼びかけるこの章の文章スタイルは、(省略)
自然と人間を対等に扱い、自然の立場から人間と自然のありかたを問うというテーマです。
天心はその視点に立ち、現代社会、とりわけ欧米において、花がまったく物質的資源として人間の好き勝手に消費され、使用済みとなれば無用のごみとして投げ捨てられていることを批判しています。
そして、これは花にとどまらず、自然環境一般に対する近代西欧社会の人間中心的、資源利用的態度を批判するものでもあるでしょう。(省略)人間は自然の一部なのであり、自然を管理支配できるなどというのは幻想である、そのことを自覚せよという天心のメッセージは、今日のエコロジー的自然観を先取りするものでした。
NHK 100分de名著ブックス『岡倉天心 茶の本』(大久保喬樹)
自然は利用/支配するものなのか?
また大久保氏がお気に入りの内容として紹介し、私自身も共感した『愚かさ』についても紹介します。
注目されるのが、最後の一行にある「美しくも愚かしいこと」という表現です。原文の英語は「beautiful foolishness of things」。(省略)
NHK 100分de名著ブックス『岡倉天心 茶の本』(大久保喬樹)
このユニークな語の用い方は、禅における「愚」や「大愚」という語の使い方をふまえたものにほかなりません。世俗の功利的な価値観から見れば役立たずでありながら、そうであればこそ、逆に功利的な尺度ではとらえることのできないような広大無辺な精神的価値、それが愚です。(省略)いろいろな知識で自分を満たしてしまうのではなく、自分をからっぽにしてこそ、そこに世界の真理を読み込んでいけるというわけです。
また天心はこの考え方を、理想的な茶道にも用いています。
自分をからっぽにして自然と一体になる。これが茶における理想の境地です。
NHK 100分de名著ブックス『岡倉天心 茶の本』(大久保喬樹)
自然を支配(利用)するためには自然に仕えなければ(観察/実験)ならないと考え、『知識は力なり』という格言を残したフランシス・ベーコン。
自然を自らと一体となる対象と捉え、空っぽ(愚)になることも大切にしてきた日本。
東洋と西洋の自然観(自然に対する捉え方)の違いを、分かりやすく表していると思います。
天心が日本人に伝えたかったこと
天心が『茶の本』を発表したのは、1906年(明治39年)でした。
文明開化をスローガンに西洋のものが何でも取り入れられ、それまでの日本文化や価値観を否定する傾向が強い時代でもありました。
そんな表明的な近代化(西洋化)を進める日本に対して、天心は問題意識を持っていたのだと思います。
ただ『西洋化/近代化』がバズワードになっていた当時の日本人に対して、直接伝えても聞く耳を持ってもらえない。
そこでまず英語で世界に対して、この問題意識を伝えた。
日清戦争、日露戦争などで世界が日本を注目しているタイミングでもあったので、
- 日本人の倫理観を理解するには『武士道(新渡戸稲造)』
- 日本人の美意識や文化を知るには『茶の本』
という形で、アメリカとヨーロッパを中心に多くの人に読まれました。
残念ながら日本語訳にされて出版されたのは、天心が亡くなった後の1929年でした。
『茶の本』は、迷子になる機会の宝庫
『ブログ整理(タグ)の考え方』でも紹介した、迷子になる地図。
今回紹介した『茶の本』には、この内容がたくさん含まれています。
自然は利用する対象(資源)ではなく、自己と一体として捉えるという考えは、『自然との共生』の根底にある価値観です。
これは自然と人間を分けて捉える考え方(二元論)から、繋がっていると捉える考え方(一元論)への転換(パラダイムシフト)でもあります。
そもそも環境問題とは、個人の自由を保障しながらも全体(環境/自然)を安定に導く、という難題でもあり、『個と公共』の究極のテーマでもあります。
その他にも、多くの気づきを与えてくれます。
- 正解がない世界で、どのように精神の安定を保つか(道教思想、虚の精神)
- 共感を生むコミュニケーションとは(芸術は作者と鑑賞者の共感によって生まれる)
- 日本のアイデンティティを考える(東洋と西洋の比較から)
普段あまり本を読む機会のない方も、『100分de名著ブックス 岡倉天心 茶の本』から始めてみるのは如何でしょうか?
活字が苦手という方は、動画から始めてみるのもいいかもしれません。