会社の価値観は、誰がつくるのか
~個人と組織の価値観が、互いに育っていく循環~

前回の記事では、「自分の価値観」はどこから生まれるのかについて考えました。

自分の価値観は、一人で自分の内側を掘り続けることで見つかるものではなく、他者との関わりの中で、共感したり、違和感を覚えたりすることで少しずつ見えてくる。そして、それを自分の言葉や行動として表現し、他者から反応を受け取ることで、また自分の価値観を見つめ直していく。

私は、他者の価値観に触れる機会を「間」、自分の価値観を表現する機会を「場」と捉えました。「間」と「場」が入れ替わりながら循環することで、お互いの価値観が育っていく。

そこで最後に残ったのが、もう一つの問いです。

自分なりの価値観を持つことと、会社が大切にするPurpose、Vision、Valuesは、どのような関係にあるのでしょうか。

今回は、個人から少し視点を広げて、「組織の価値観」について考えてみたいと思います。

会社の価値観は、経営者から始まる

会社のPurpose、Vision、Valuesを考える時、その起点には経営者や創業者の想いがあることが多いと思います。

「なぜ、この会社は存在するのか」、「どんな社会をつくりたいのか」、「どこを目指していくのか」、「そのために、何を大切にしたいのか」。こうした問いへの答えには、経営者自身の経験や問題意識、そして価値観が反映されます。

もちろん、社員を巻き込みながらPurposeやVision、Valuesを策定する会社も増えています。それでも、経営者が「この会社をどこへ向かわせたいのか」、「何を大切に経営するのか」という意思を持つことは、経営の役割として必要です。

そう考えると、

経営者の想い・価値観

会社のPurpose・Vision・Values

社員

という流れは、とても自然なものです。

そして企業では、それを社員に理解してもらい、日々の仕事や判断につなげていくことを「浸透」と呼ぶことがあります。

ただ、会社の価値観は、経営者がつくり、それを社員に伝え、理解してもらえば完成なのでしょうか。

 

会社の価値観と、自分の価値観を照らし合わせる

会社が大切にする価値観と、社員一人ひとりが大切にする価値観は、当然ながら完全に同じではありません。

社員にも、それぞれの経験を通じて育ててきた価値観があります。だから、会社が価値観(Purpose、Vision、Values)を掲げたからといって、社員の価値観がそこに置き換わるわけではありませんし、置き換える必要もないと思います。

大切なのは、会社の価値観に自分を合わせることではなく、

「会社が大切にしていることと、自分が大切にしていることは、どこが重なるのだろう?」

と、一人ひとりが考えることではないでしょうか。

強く共感するところもあれば、「私は少し違う」と感じるところもある。会社の価値観に触れることで、「自分もこれを大切にしたい」と思うこともあれば、逆に「なぜ自分はここに違和感を持つのだろう?」と、自分自身について考えることもあります。

もちろん、何でも違っていてよいということではありません。会社として大切にしたい価値観と、その人がどうしても譲れない価値観が全く相容れないのであれば、そもそも一緒に働き続けることがお互いにとって幸せなのかを考える必要があります。だからこそ採用の段階でも、スキルや経験だけでなく、お互いが大切にしている価値観を確かめることは重要だと思います。

一方で、すべての価値観が同じである必要もありません。大切なのは「揃える」ことではなく、お互いの価値観の「重なり」を見つけることなのではないでしょうか。

そう考えると、会社のPurpose、Vision、Valuesは、社員を一つの価値観に揃えるためのものではなく、一人ひとりが自分の価値観を見つめ、会社との「重なり」を考えるための共通の拠り所にもなるのではないかと思います。

 

自分の価値観を知り、共有する

そのためには、自分自身が何を大切にしているのかを、ある程度客観的に見られることも必要です。

人は誰でも価値観を持っていますが、それを自覚しているとは限りません。「なんとなく好き」、「なぜか腹が立つ」、「これは譲れない」。その背景には自分が大切にしているものが隠れていますが、それを自覚していなければ、自分にとっての「当たり前」を、他の人にとっても当たり前だと思ってしまうことがあります。

だからこそ、「私は、なぜそう感じるのだろう?」、「私は、何を大切にしているから、この判断をしたのだろう?」と、自分自身を少し離れたところから見てみる。

自分の価値観を客観視することは、自分の価値観を正しいものとして固定することではありません。「これは自分が大切にしている価値観の一つなのだ」と認識することで、むしろ自分自身の考えも問い直せるようになります。

そして、組織の中では、それを自分だけで理解しているだけでは十分ではありません。自分が何を大切にしているのか、それが仕事の中でどのような判断や行動として表れているのかを、他者にも伝えていく必要があります。

その時には、言葉と行動の一貫性も大切です。「挑戦を大切にしている」と言いながら、失敗した人を責めていれば、周囲には違う価値観が伝わります。一方で、自分では意識していなくても、周囲から「あなたはこういうことを大切にしているよね」と言われ、自分の価値観に気づくこともあります。

価値観は、自分で客観視し、他者と共有することで、よりはっきりと見えてくるのだと思います。

 

同じ方向を向くだけでは、仲間にはならない

価値観を共有することには、もう一つ大切な意味があります。

同じ会社で働き、同じPurposeやVisionを理解していたとしても、それだけでお互いを理解し、仲間としての関係性が生まれるわけではありません。

「この人は、なぜこの仕事を大切にしているのだろう」、「どんな経験から、この考え方になったのだろう」。そうした、その人の背景にある価値観が見えてくることで、仕事上の役割だけではない、一人の人として相手を理解できるようになります。

同じ方向を向いていることと、お互いを仲間として理解していることは、同じではない。

さらに、自分とは違う価値観に触れることで、自分自身も影響を受けます。「そんな考え方もあるのか」と気づいたり、「やはり自分はこれを大切にしたい」と自分の考えがより明確になったり、「今までこう考えていたけれど、少し考えが変わった」と思うこともあります。

つまり、価値観を共有することは、既に持っている価値観を確認し合うだけではなく、お互いを理解し、お互いの価値観を育てていくことでもあるのだと思います。

 

Purpose、Vision、Valuesは、誰のものなのか

では、会社のPurpose、Vision、Valuesは誰のものなのでしょうか。

経営者が自らの想いや経営観をもとに示すこともあれば、社員と一緒にVisionを描いたり、現場から出てきた言葉をもとにValuesをつくったりする会社もあります。私は、どちらが正しいということではないと思っています。会社が置かれている状況や、何を考えるのかによって、経営が決めるべきこともあれば、社員と一緒に考えた方がよいこともあるからです。

ただ、誰が最初につくったとしても、それをそこで完成としてしまうのは違うのではないかと思います。

例えば、社員と一緒にPurposeやVision、Valuesをつくるのであれば、その策定プロセス自体が、会社の価値観に触れ、自分自身の価値観と照らし合わせ、自分の考えを表現する機会になります。

一方、策定に参加しなかった社員も、出来上がったものをただ理解するのではなく、「自分はどこに共感するのか」、「どこに違和感を持つのか」と自分なりに意味づけることができます。そして、その共感や違和感が会社へ返ることで、Purpose、Vision、Valuesそのものを改めて考え、磨いていくきっかけにもなる。

つまり、社員の共感や違和感は、社員自身が自分の価値観を知るだけでなく、会社自身が、自分たちが大切にしたいものを改めて考えるきっかけにもなる。

そう考えると、「策定」と「浸透」を別々の活動として分けること自体が、少し違うのかもしれません。

 

経営者と社員も、お互いの「間」と「場」になる

この関係を、経営者と社員の間にも広げて考えてみます。

経営者が自分の想いや価値観をPurpose、Vision、Valuesとして表現する。それは経営者にとっての「場」であり、それを受け取る社員にとっての「間」になります。

社員は、それを自分自身の価値観と照らし合わせながら仕事をします。その経験の中で、「やはり、この考え方は大切だ」という共感だけでなく、「今の現場では少し違うのではないか」「むしろ、こんなことを大切にした方がいいのではないか」という違和感や新しい気づきも生まれます。

そして、それを自分の言葉や行動として会社に返していく。今度は社員が「場」になり、それを受け取る経営者が「間」になります。

社員の経験や価値観、共感や違和感に触れることで、経営者自身も「そんな見方があったのか」、「会社として大切にすることを、もう一度考えた方がいいかもしれない」と、自分自身の考えを見つめ直す。

つまり、「経営者 → 会社 → 社員」だけではなく、「社員 → 会社 → 経営者」という流れもある。

さらに、社員同士でも同じことが起きています。経営者と社員、社員と社員がお互いの「間」と「場」になりながら、想いや価値観、経験、気づきが行き来する。 そう考えると、会社とは、経営者がつくった価値観を社員に伝えるためだけの存在ではなく、様々な人の価値観が出会い、互いに影響し合う「間」であり「場」でもあるのかもしれません。

「経営者 ⇄ 会社 ⇄ 社員」の循環図

 

人が育つように、組織の価値観も育っていく

この循環の中で、人だけでなく組織の価値観も育っていきます。

もちろん、Purpose、Vision、Valuesは、社員から意見が出るたびに変えるものではありません。特にPurposeは、簡単に変えてしまえば会社としての軸を失ってしまいます。一方で、そこで完成としてしまうのも違うのではないかと思います。

Visionは、社会や事業環境が変われば見直す必要があるかもしれません。Valuesも、社員が様々な経験を重ねる中で、「私たちは本当は何を大切にしているのか」がより明確になったり、新しい価値観が加わったりすることもあるでしょう。Purposeも、言葉そのものは変わらなくても、その意味の捉え方や実現の仕方は深まっていくはずです。

もちろん、社員から出てきたものをすべて会社に反映するということでもありません。何を変え、何を変えないのか。どこまで社員と一緒に考え、どこを経営として決めるのかを判断することは、経営の役割です。

つまり、Purpose、Vision、Valuesは、経営者と社員との関わりの中で、意味を深め、必要なものは磨き、時にはアップデートしていくものとして捉えることができるのではないでしょうか。

人の価値観が他者との関わりの中で育っていくように、組織の価値観もまた、そこで働く人たちとの関わりの中で育っていく。

想いが巡り、会社が育ち、人が変わる。そして、変わった人たちによって、また会社が変わっていく。

会社のPurpose、Vision、Valuesを「浸透させる」ということも、決められたものを社員に理解させ、合わせてもらうことではなく、こうした循環を生み出していくことなのかもしれません。

 

では、その循環はどうすれば生まれるのか

ただ、PurposeやVision、Valuesを発信すれば、自然にこの循環が生まれるわけではありません。社員アンケートや1on1で社員の声を「聞く」だけでも十分ではないと思います。

経営者と社員、そして社員同士が、お互いの考えや価値観に触れ、「なぜ自分はそう感じるのか」と考える。そして、感じたことや考えたことを自分の言葉で相手に返し、その反応をまた受け取る。

前回考えた「間」と「場」が、組織の中で行き来し続ける。
その循環を生み出すために必要になるのが、「対話」なのだと思います。

では、人と組織がお互いに変わり続けるためには、どのような対話が必要なのでしょうか。

次回は、価値観の自己開示や相互理解、関係性といった視点から、組織における「対話」の意味と、そのために必要なことを考えてみたいと思います。