私たちの人生は、選択肢(可能性)を広げ続ける旅です。多くの企業が社員の挑戦を後押しし、新しい環境での成長を促しています。しかし、現実には多くの社員が現在の仕事や環境を変えることに対して抵抗を感じています。本ブログでは、なぜ挑戦が重要であるか、挑戦に踏み出せない理由、そして日常の中で小さな一歩を踏み出す方法について考えてみます。
目次
『挑戦を促したい企業』vs『変化を嫌う社員』
今年も社内報アワードの審査員をさせていただき、様々な企業の社内報に触れる機会がありました。多くの社内報では『社員の挑戦を後押しする』というテーマが取り上げられ、新たな一歩を踏み出した社員の事例が紹介されていました。しかしクライアント企業の若手・中堅社員との交流を通して、仕事の担当業務や専門領域を変えたくないという声も耳にします。その理由としては、『新しい環境に必要な知識の習得に時間がかかる』や、『顧客との関係を築くのはタイパ(タイムパフォーマンス)が悪い』などです。これらの声からは、社員が今の慣れた環境(コンフォートゾーン)から抜け出すことへの本音が見えます。
挑戦の格差がもたらす人生への影響
以前は海外駐在やローテーションによる複数部門の経験を通じて、新しい環境への挑戦が社員に半ば強制的に課されていました。しかし、現在は雇用の流動化や労働者保護意識の高まりにより、会社主導のキャリア形成は機能しなくなっています。さらにジョブ型採用では、該当ポジションの適性を満たす人材を採用するため、社内での教育や異動の必要性が減少します。
これにより、自ら新しいことに挑戦し続ける人と、今の仕事や環境に留まり続ける人との間で、経験やスキルの格差が広がり、人生における選択肢(可能性)の格差が生まれることになるのです。
人が挑戦に踏み出せない理由
自分の環境を変えたくないというのは、人間として当然の反応です。新しい仕事環境では、新たな人間関係(上司/部下/同僚、取引先など)を築く必要があります。また新しい業界や領域では、新しい知識やスキルを身に着ける必要が出てきます。私自身も人見知りなので、新たな環境での人間関係の構築に苦労しています。
また生物にはホメオスタシス(恒常性)があり、内部環境を一定に保とうとする力が働きます。新しいことに挑戦する時に感じるストレスや不安は、脳が変化を避けようとする反応です。つまり環境を変えること、新しいことに挑戦することは、生物の本能である生存(種の保存)だけを考えると不合理で非効率なのです。しかし人間は本能に従うだけでなく、自分の価値観や信念に従って自ら考え判断し、生きていくことができます。名著『大衆の反逆』でオルテガが警笛を鳴らしたのも、本能に流されて生きる人達の増殖に危機感を抱いたからでしょう。
人間を最も根本的に分類すれば、次の二つのタイプに分けることが出来る。第一は、自らに多くを求め、進んで困難と義務を負わんとする人々であり、第二は、自分に対してなんらの特別な要求を持たない人々、生きるということが自分の既存の姿の瞬間的連続以外のなにものでもなく、したがって自己完成への努力をしない人々、つまり風のままに漂う浮標のような人々である。
大衆の反逆 オルテガ・イ・ガセット
まさに第二のタイプを、オルテガは大衆だと言っているのです。
成長のためにコンフォートゾーンから抜け出す
新しい環境には、無限の学びと成長が待っています。
今の慣れた環境は『安心/安全領域(Comfort Zone)』です。そこから抜け出すことは、『怖れ領域(Fear Zone)』に飛び込むことになりますが、その怖れに抗って進み続けることで、新しい学びの機会を得て成長することができます。学びを積み重ねることで、知識やスキル、経験が増え、Comfort Zoneが広がります。これにより、あなたの強みが増え、活動の幅が広がり、見えている世界(視野)が広がります。最終的には、自分が本当にやりたいことや解決したい課題(顧客の課題、社会の課題など)に向き合うことができるようになります。
短期的には慣れた環境での仕事は、効率的に思えるかもしれませんが、同じことを繰り返していると、企業も個人も時代の変化に対応できなくなります。この危機感から、多くの企業が社員に挑戦を通した成長を求めているのです。また個人としても挑戦できる機会を活かすことで将来の選択肢を増やし、自分の意志で選択/判断することの連続が、キャリア形成に繋がります。
まずは日常のなかで、『小さな+α』を意識してみよう
いきなり大きな挑戦をするのは、難しいかもしれません。そのような場合、日常のなかで小さな新しいことを加えてみましょう。
- インプット情報に+α
いつも見ているテレビやYouTubeチャンネル、書籍に加え、新しいテーマに触れてみましょう。Webはマスメディアと異なり時間をかけて自分の考えを発信することができるので、様々な価値観や思考に触れることができます。 - 交流する人達に+α
いつも話をする人達だけでなく、新しい人達と交流してみましょう。職場だけでなく、ご近所さんや旅先で出会った現地の人に話しかける。勉強会や交流会に参加して、普段話さないタイプの人に話しかけることで、新しい自分を発見できるかもしれません。 - 担当業務に+α
日常業務のなかで、自分の担当する仕事以外の情報にも興味を持ってみましょう。同僚が上司に報告・相談する内容や別部門の報告書、社内報など、情報は溢れています。これまで見えていなかった自分の仕事との関係性が明らかになったり、新たな興味を発見できるかもしれません。
今日から一緒に、一歩踏み出してみませんか。