日本自動車業界の大再編!?
12月18日、ホンダと日産が経営統合に向けた協議に入ると報道されました。3月にEV(電気自動車)などの分野での協業が発表されていましたが、最近では鴻海がルノーの保有する日産株を取得する動きを防ぐために、ホンダとの経営統合を検討しているという話も挙がっています。しかし、真相はまだはっきりしていません。組織規模が大きくなることで、EVやソフトウェア開発などでの効率化が期待される一方、個人的には両社がどのように統合していくのか、そしてそのビジョンがどのように描かれているのかに強い関心を抱いています。
私はホンダの車に乗っており、二輪から四輪、さらにはジェット機に至るまで挑戦を続けるホンダイズムにも惹かれています。また数少ない日本が世界で戦える自動車業界を担う会社なので、是非とも今後も頑張ってもらいたいと願っています。しかし異なる成り立ちや価値観を持つ企業が一つになることの難しさを考えると、福岡伸一先生の『動的平衡』という概念が頭に浮かびます。
生き残りには『分解と再生』
以前のブログ『哲学がポストコロナの羅針盤 ~サンデル教授と福岡教授の対談から~』でも触れましたが、福岡伸一先生は、『動的平衡』という視点から生物を捉えられています。以下はその一文です。
生物を構成している分子は、全て高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである。(中略)サステナブルは動きながら常に分解と再生を繰り返し、自分を作り替えている。サステナブルであることは、何かを物質的、制度的に保存したり、死守したりすることではない
『動的平衡:生物はなぜそこにやどるのか』 福岡伸一
この考え方を企業の経営統合に当てはめると、『何』を分解して、『何』を再生するのかが非常に重要になります。それを決めるのは、企業がどのような価値を提供したいか(存在意義)や、何を大切にしたいのか(価値観)といった、企業の根本にある考え方です。経営統合が進むなかで、お互いの考え方を理解し、共通の存在意義や価値観にすることができなければ、新陳代謝(分解と再生)は進まず、企業としての生命力(サステナブル)が失われてしまうでしょう。
一方で、異なる文化や価値観を持つ企業だからこそ、自分達の考え方を大切にしつつ、相手の考え方にも触れ、刺激を受けながら変化を生み出す可能性も秘めています。そのためには、これまでの制度や考え方をやみくもに守るのではなく、現在の状況を客観的に捉え、目的(存在意義)に向かって何を成すべきか、どのように変わるべきかを、両社のリーダーたちが深く話し合うことが不可欠です。
我々一人一人にも新陳代謝が必要
我たち人間にとっても、新陳代謝は欠かせません。細胞レベルでの新陳代謝は自然に行われますが、そのためには栄養を摂取し、十分な休息を取るなど、健康を維持することが重要です。しかし、思考や精神の新陳代謝は、自分の意識にかかっており、意識的に行わなければなりません。
思考や精神の新陳代謝においては、栄養の代わりに情報の摂取が大切です。自分が知りたい情報だけを追い求めてしまうと、どうしても偏った考えに陥りがちです。自分とは異なる業界や経験、考え方を持つ人たちと触れ合うことで、新しい視点を得ることができます。そのなかで、何を取り入れるか(つまり、どの考え方を分解し、何を再生するか)を慎重に選ばなければなりません。
自分の考え方や価値観に固執してしまうと、分解が進まずに細胞が老化(思考が硬直)し、生命力を失うことになります。しかし、だからといって自分を全て否定する必要はありません。一度分解してみてから、どう再生するかを考えてみるという軽い気持ちで、異なる考え方を取り入れることが大切だと思います。
企業も人間も、機械とは違い有機的な存在です。物理的な存在以上に、何をもたらすか、どのように行動するかを意識することが、持続可能性を高めることにつながるのだと思います。福岡先生が教えてくれたように、心と体の新陳代謝を意識し、日々を過ごしていくことが大切です。