児童書から学んだこと
~モモ:ミヒャエル・エンデ~

目次

子供の頃、好きだった本

「あなたが子供の頃、好きだった本は何ですか?」

私は子供の頃、あまり本を読む習慣がありませんでした。暗くなるまで外を走り回っているような子供時代だったので、読書感想文のために読むくらいでした。そんな私ですが小学校6年生の時の国語の試験問題に出てきた文章になぜか惹かれ、『モモ(ミヒャエル・エンデ)』を買ったことがありました。

そんなことも忘れていたのですが、NHK 100分de名著でモモが取り上げられているのを目にして、昔の記憶がよみがえってきました。テキストには『「豊かな」時間とは何か?』というサブタイトルも書かれており、気になってすぐにネットで購入してしまいました。

今回は解説を引用しながら、特に印象に残った3つについて紹介します。

  1. 対話の意味
  2. 想像力を育てる大切さ
  3. 効率化と人間の豊かさ

 

自分の考えを他人に話す意味

物語の主人公は、どこからともなく現われ町の円形劇場の廃墟に住み着いた女の子のモモです。最初は町の皆がモモの生活を援助していたのですが、次第になくてはならない存在になります。その理由はモモが、相手の話を聞くことができたからです。

解説役である臨床心理学者の河合俊雄氏は、話を聞くという行為について以下のように解説しています。

なぜ人に話を聞いてもらうと気持ちが楽になるのでしょうか。
私は、それが相手に何かを託すことができる行為だからだと思います。日常生活において、人に何かを託すということは意外と難しいものです。こちらが真剣に話しても相手が受け取ってくれなかったり、話を逸らされたりします。
裏を返していえば、そこを託せたと思えるだけで人はだいぶ楽になるのです。心理療法の現場では、これが何をおいても第一歩になります。次の段階として、相手に託せたことで何かが自分に返ってくる、自分の中に変化が起こることを目指すのです。

100分de名著 ミヒャエル・エンデ『モモ』 2020年8月  河合 俊雄

また解説のなかで聞き手はすぐにアドバイスをしたり、自分の話(自分の若い頃には~)をしたりして、話を逸らしてしまうと忠告しています。私もついついアドバイスをしてしまう傾向があるのですが、思い当たる人も多いのではないでしょうか。

話を聞くことを『相手に託される行為』と捉えると、より相手の話を聞くことに集中できそうですね。また自分の話をすることを『相手に託す行為』と捉えると、より素直に自分の話が出来そうな気がしました。

 

想像力を育てるのは『自由な時間』

河合氏の解説の中で『遊べなくなった子どもたち』という表現で、現代の問題を指摘している内容にも強く共感しました。

ゲームなどその目的に特化したおもちゃが増えたため、想像力を使って自由に遊ぶことが難しくなってきているのだと思います。
遊びに限った話ではありません。物事があらかじめすべて決められていると、人間の想像力は次第に失われていきます。つまり、想像力を育てるのは自由な時間なのです。(中略)
おもちゃが象徴するのは単なるモノではなく、子どもたちの時間と想像力を奪うものすべてと考えられるからです。わからないことはインターネットで調べればすぐに答えが出る。自分なりに妄想やイマジネーションを広げる隙間などない。そんな現代のありようにも、遊べない子どもたちの場面は問題を投げかけています。

100分de名著 ミヒャエル・エンデ『モモ』 2020年8月  河合 俊雄

自分の子供たちを見ていると、人形やブロックなどを想像力豊かに色々なものに代えて遊んでいます。親としては説明書に従い決められた形へと誘導したくなるのですが、自分の考えで自由に遊ぶ方が楽しそうにしています。

またスポーツや音楽などで悩んでも、今はYouTubeでプロの解説動画を見ることができるので、昔のように自分で想像しながら試行錯誤を繰り返すこともなく上達することができます。上達に向けて効率は良くなっているのでしょうが、引き換えに失っているものがあるようにも感じます。

偏差値や成績重視の勉強も、『子供たちの時間と想像力を奪うもの』になっているのではないかと感じています。例えば私が小学生の頃は算数の難しい問題に対して、色々と絵を描いたりして試行錯誤する楽しさを感じていました。受験に向けたテクニックを学ぶことが目的になってしまうと、最初に解き方を教えて効率よく回答させることが重視されてしまいます。

様々な会社の人たちと接していると、具体的な仕事を対処する力は高いのに、物事を抽象的に整理して考えたり、抽象的な内容を具体化することが苦手な人が多い印象を受けます。これも想像力の低下が原因ではないかと思っています。

 

時間の節約だけでは、人は豊かになれない

モモの物語で重要となるのが、『灰色の男たち』と呼ばれる時間貯蓄銀行の外交員たちです。彼らは人々に時間貯蓄のため、余裕や無駄に使っている時間の節約を持ちかけるのです。そして彼らの誘いにのった人たちは、物質的には豊かになるのですが、怒りっぽくなったり、せわしなくなり、時間を節約しているはずなのに一日一日が短くなってしまうのです。

時間を節約したはずなのに余裕は生まれない。私たちの生活においても、しばしば実感されることではないでしょうか。(中略)節約した時間に新しい仕事がどんどん入り、私たちはますます忙しくなっていますね。(中略)近代において時間の節約をして得をするのは、個人ではなくシステムの側だということです。私たちは時間が節約できて得をしたと思っていても、結局は企業の利益や国家の方針などシステムのために利用されているのです。(中略)
この構図は、現代においてさらにリアリティを増しています。GAFAと呼ばれる巨大プラットフォーマーとユーザーの関係がまさにそうでしょう。(中略)つまり、人間がツールを使っているのではなく、人間がシステムに使われているのです。(中略)私たちは便利になったと思っているが、実際にはシステムに利用されており、結局個人は幸せにならない。

100分de名著 ミヒャエル・エンデ『モモ』 2020年8月  河合 俊雄

クライアント企業の改革に関わることが多いのですが、そのなかで『効率化』という言葉がよく出てきます。その際には時間の節約(効率化)が目的では、社員や組織(会社)は幸せになれないということをお伝えしています。そこで効率化によって生まれた時間を、どのようなことに使いたいかを考えることを提案しています。

  • 顧客との交流に時間を充て新たな価値を創出し、自分の仕事の意義を高める
  • 部下との対話に時間を充て部下の成長を支援し、次の世代にバトンを渡す
  • 家庭や地域での時間に充て自分の役割を果たし、生活の豊かさを高める

また『DX』という言葉が流行っていますが、『人間がシステムに使われている』状態にならないように、DXの目的(なりたい姿、目標、ビジョン)を明確にすることを勧めています。システムを入れただけで、DX(デジタル・トランスフォーメーション(変革))が実現されることは絶対にありません。人間が目的の実現に向け、システムを使いこなすことが大切です。

 

時にはファンタジーなどの児童書を読んで、想像力を高める時間を取ってみませんか。一見無駄に思える時間こそ、人生に豊かさをもたらしてくれるはずです。