小学生の子供を持つ友人との会話から、学校における評価方法(成績)に興味を持ちました。
学校教育の状況をネットで調べると、教育について考える機会になりました。
今回は改定されたばかりの『学習指導要領』も取り上げに、学校教育について考えます。
中国の図工では、絵一枚一枚に点数がつけられる
子供に色々な経験をさせたいと、中国に1年間留学に行っている友人家族がいます。
先日中国の小学校で経験した話を聞きました。
友人の娘(小学校1年生)が学校から帰ってくると、とても落ち込んでいたそうです。
「学校で何かあったの?」と聞くと、「学校の図工で描いた絵に対して、先生に30点と言われた」とのこと。
先生に30点の理由を聞いたのかと確認したところ、「太陽を紫色で描いているので30点だ。今度からきちんと赤色で描きなさい」と言われたそうだ。
友人は「〇〇ちゃんは、なんで太陽を紫色にしたのかな?」と子供に質問し、「その日は自分の気分がよくなかったから、太陽は紫色にしたかったの」という理由を聞き出した。
それに対して友人は、「絵はあなたが感じたこと、思ったことを自由に表現すればいいのよ」と言って、励ましたそうだ。
中国では親が学校の成績を高めることに偏重しており、子供の成績に対する問い合わせも多いようだ。
先生としてもできるだけ客観的な基準を用いて評価することで、親からの質問に毅然と対応できるようにしているのではないかと感じた。
このような教師の指導により、子供たちに『良い成績を取るために絵を描く』という意識が刷り込まれ、本来子供に育んでもらいたい『作品づくりを楽しむ』という感性が失われているのではと心配になった。
小学校一年生の『あゆみ』(通知簿)
皆さんは、小学校の『あゆみ』を覚えていますか?
あゆみは、小学校から学期末にもらう通知表のことですね。
自分の子供の頃の日本では、図工はどのように評価されていたのか気になり読み返した。
図工(下図の右上部分)
・のびのびと かくことが できる (できました/がんばりましょう)
・くふうして ものを つくることが できる (できました/がんばりましょう)

この評価項目をみるかぎり日本で紫色の太陽を描いても、減点されることはなさそうだ。
逆に自分の感性や考えをのびのびと自由に描いているので、加点してもらえるのではないか。
日本の教育は転換期にある?
私が小学生だったのは1990年代なので、今はずいぶん変わっているのではないかと思いネットで調べてみたところ、新しい発見があった。
小学校は2020年度から、中学校は2021年度から、高等学校は2022年度から『学習指導要領』が変更されたようだ。
今回の改訂ポイントを説明する資料から、私が気になった点を抜粋する。
知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」
知・徳・体にわたる「生きる力」を子供たちに育むため、「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有しながら、授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していけるよう、全ての教科等を、①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の三つの柱で再整理。各学校におけるカリキュラム・マネジメントの確立
幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント
教科等の目標や内容を見渡し、特に学習の基盤となる資質・能力(言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等)や現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成のためには、教科等横断的な学習を充実する必要。
一つ目の『何のために学ぶのかという学習の目的を明確化』することは大切で、これが不明確だと授業や宿題という手段が目的に陥ってしまいやすいです。
必要な情報を必要なタイミングで入手し(記憶の引き出しから探す、ウェブで検索など)、統合させながら問題を解決するには、二つ目の『教科等横断的な学習』が必須でしょう。
学校の成績の新しいつけ方
学習の目的(身につけさせたい資質/能力)が明確になったので、習得するには学習と評価のセットで進めることが大切です。
教師向けの『学習評価の在り方ハンドブック』には、学習評価の目的が書かれていました。
「児童生徒にどういったカが身に付いたか」という学習の成果を的確に捉え,教師が指導の改善を図るとともに,児童生徒自身が自らの学習を振り返って次の学習に向かうことができるようにするためにも,学習評価の在り方は重要であり,教育課程や学習・指導方法の改善と一貫性のある取組を進めることが求められます。
学習評価の在り方ハンドブック
大人も子供も成長のためには、成長させる目標(身に着けたい資質/能力)を明確にしたうえで、実際に学習や挑戦を行い、その結果を振り返り次の目標設定を行うというサイクルが必要です。
このサイクルを行うなかで、客観的な評価を通して自己を正しく認識することがとても重要になります。
新しい通知表では、科目毎に『①知識/技能』、『②思考/判断/表現』、『③主体的に学習に取り組む態度』の3つに対して3段階(中学校以上は5段階)で評価するそうです。

科目毎に観点がある程度明確になっているので、わかりやすくなったのかもしれません。
一方で私が一番大切だと感じている『教科等横断的な視点で育成を目指すこととされた資質・能力』の評価については、以下のように書かれていました。
①各教科等の指導と評価の一体化を図る中で資質・能力を育成した上で,②それらの資質・能力が教科等横断的に関連付け発揮されるようにすることが重要。
新学習指導要領の全面実施と学習評価の改善について
※したがって,例えば,各教科等の評価規準とは別に,教科等横断的な資質・能力に関わる評価規準を設定し評価することは必ずしも必要ではない。
確かに教科毎に評価する方法では、教科横断的に育成する資質・能力の評価は難しいでしょう。
ただ評価から外れるということは、生徒が振り返るためのフィードバックが不足する懸念もあります。
個々の先生の力量に任されてしまうということなのかもしれません。
学校教育を通して育んで欲しいこと
3つの観点や学習の基礎となる素質・能力は、とても大切だと思います。
一方でこれらの資質・能力を使って問題を解決したり、幸せを実現するためには、自分の価値観を形成することも大切だと思います。
- 自然観:自然に触れながら、『人』と『自然』を調和させることの大切さを感じる
- 倫理観:友人との対話や衝突を経験し、『自分(個)』と『他者(公共)』のバランスを作り出せる
- 文明観:知識/技術(文明)だけでなく、それらが生み出された背景(文化)を合わせて学ぶことにより、『文明』と『文化』を融合して受け継ぐ

これらの価値観(人格)が形成されることにより、身に着けた資質や能力を正しく活かすことが出来るのではないでしょうか。
知識や技術などの理解/習得度は、テストなどを通じて客観的に測定して評価できるでしょう。
一方で知識や技術を正しくコントロールするための人格は、教師や親が主観的に観察して子供たちへフィードバックする必要があります。
テストや宿題の採点に、AIが使われるようになるというニュースも耳にします。
人にしかできないことに時間が割けるようになると、学校教育が掲げている目的に近づけるのではと思っています。
教育の目的と目標が書かれている、教育基本法を引用して終わりにしたいと思います。
(教育の目的)
第一条 教育は,人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。(教育の目標)
教育基本法
第二条 教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け,真理を求める態度を養い,豊かな情操と道徳心を培うとともに,健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して,その能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自律の精神を養うとともに,職業及び生活との関連を重視し,勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずるとともに,公共の精神に基づき,主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。