幸せな社会のカギは共感力 
~SDGsの先に目指すもの~

目次

SDGsで倫理観を呼び覚ます!?

同世代の経営者やビジネスマンたちと行っている、月次の勉強会。
先日もWebで行ったのですが、テーマはSDGs(Sustainable Development Goals)でした。

参加者たちが自社で行っているSDGsの取り組みなどを紹介した後、様々な議論に発展しました。
議論のなかで、印象に残った参加者の発言がありました。

<参加者の発言>
SDGsって、企業が活動する際に最低限守るべきことを17個に集約して挙げている気がする。
日本人って倫理観が高いので、SDGsの目標を見ても当然だよねと感じる人が多い。
ただグローバルの状況は異なるので、倫理観を高めるためにも意義があるよね。

また別の参加者からは勉強会の最後に、感想として以下の発言がありました。

<別の参加者の発言>
SDGsに取り組む大手取引先からの要求で、取引先の労働環境調査などが求められるようになった。
これまでは手間や費用が掛かるだけだと感じていたが、調査の目的が理解できると必要性に対する共感も生まれた。

SDGsは行き過ぎた利益偏重の経済活動に倫理観を思い出させ、人間が幸せになるための経済活動に戻そうとしているのだなと感じました。

経済学の父が目指していた経済活動の姿

SDGsが目指している社会を考えていると、アダム・スミスのことを思い出しました。
利益偏重の現代の経済を作ってきた人たちが、都合の良いようにアダム・スミスを利用してきたことも影響し、アダム・スミスの主張を誤解している人が多いようです。

政府の介入を最小限にして市場を自由な競争に任せることによって最適な経済活動が実現すると聞けば、今の行き過ぎた『富を奪い合う弱肉強食の状態』を連想する人も少なくないでしょう。

アダム・スミスが目指していたのは現代の経済とは逆の、もっと人間味あふれる『分かち合う状態』だったと言われています。
国富論をそのまま読み解くのは難解ですので、NHK100分de名著の解説を引用します。

共感を持っている人間たちの活動によってこそ、経済は成り立っている
共感を持っている人間の労働によってこそ、商品に価値が生まれる。
そして、共感を持っている人間だからこそ、労働によって生み出された商品の価値を理解することができる。
かくして、経済活動は道徳的であってこそ、共感性が強ければこそ、経済活動なのです。

別冊NHK100分de名著 「幸せ」について考えよう 島田雅彦、浜矩子、西研、鈴木晶

 

人間らしい感情とは

国富論を発表した1776年より前の1759年に、アダム・スミスは『道徳感情論』を発表しています。
このなかで自由な経済活動の前提となる人間本来の感情について、考えを示しています。

『道徳感情論』で語られていたのは、「共感( シンパシー)」こそが、その人間の営みの根幹であり、心の平安と幸せの源泉だということでした。
共感とは何でしょう。端的に言って、それは人の痛みがわかることだと思います。
人の痛みを我がことのように感じることが出来る。
この感受性こそ、人間を人間たらしめるものだと思います。

別冊NHK100分de名著 「幸せ」について考えよう 島田雅彦、浜矩子、西研、鈴木晶

またアダム・スミス自身の説明も、一部引用しておきます。

いかに利己的であるように見えようと、人間本性のなかには、他人の運命に関心をもち、他人の幸福をかけがえのないものにするいくつかの推進力(プリンシプル)が含まれている。
人間がそれから受け取るものは、それを眺めることによって得られる喜びの他に何もない。
哀れみや同情がこの種のもので、他人の苦悩を目の当たりにし、事態をくっきりと認識した時に感じる情動(エモーション)に他ならない。

道徳感情論 アダム・スミス

 

生産者の痛みに関心を持ち、倫理的な社会へ

現代の行き過ぎた自由経済では、我々消費者の気づかないところで多くの痛みが生じています。
代表的なのが、ダイヤモンド採掘や農園(カカオやコーヒー等)で行われている児童労働でしょう。

子供の命を削って届けられたダイヤモンドやコーヒー豆では、本来消費者も楽しむことができません。
また自分の子と同じ年代の子供が苦しみながら作ったサッカーボールを、自分の子におもちゃとして与えたいと思う親もいないでしょう。

グローバル化や分業化が過度に進むことにより生産者と消費者が分断され、消費者が生産者の状況を知る機会が減ったことも、倫理観に反する事業を成り立たせてしまっている原因の一つでしょう。

我々消費者が生産過程にまで関心を広げることは、生産者や環境の痛みを和らげることにも繋がるのです。

 

同情(sympathy)から共感/共鳴(empathy)へ

他人の苦悩や痛みに同情することは、人間として大切な感情です。
そこから更に一歩進め、他人の感情を分かち合う(共感/共鳴する)ことで、幸せな社会の実現に近づくのではと考えています。

他人の苦痛や痛みに同情するだけでは、根本的な解決にはつながり辛いのが現実でしょう。
自分事として捉え共感/共鳴し、苦悩や痛みというネガティブな状態の解決を共に進める。

またネガティブな状態を解決した先には、情熱や幸福というポジティブな状態を広げていくことが必要になってきます。
共感/共鳴は、他人の情熱や想いといったポジティブな状態にも作用します。

価値観が多様化するなか、お互いのポジティブな感情に対して共感/共鳴し合うことにより、共同の価値観や目指す姿(共同主観)を形成することが重要になっています。

既にデジタル技術などを活用し、多くの共感が生み出されています。

生産者と消費者を直接つないで、生産者の想いや情熱を感じながら食品を購入できるプラットフォームは、子育て世代などを中心に流行っています。
生産者の声を子供に届けることで、食べ物の大切さを考えてもらう機会にもなるそうです。

自分の強い想いをメッセージとして発信することにより、共感してくれる人から資金を集めるクラウドファンディングも、確実に浸透してきています。
自分の価値観との重なりを感じた人が、賛同しているのでしょう。

みんなで共感力を高めよう

あまり大上段に構えすぎると、本来の目的を忘れがちになってしまいます。
日常生活のなかで他者や環境に対する関心を高めることにより、想像する力や関連付ける力を高めることが大切です。

様々な物事について想像しながら、異なる物事を関連づけて考えてみる。
またそれらを自分と関連づけることにより、共感力は少しずつ高まるのです。

共感力が高まればSDGsも達成でき、その先にある幸せな社会にも近づけると信じています。