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地球温暖化対策は進んでいるか?
今年もまだ6月だというのに、暑い日が続いています。東京都心では去年(2023年)の夏日(最高気温が25度を超えた日)は140日を超え、11月でも夏日という状況でした。日本でも四季を感じることが、難しくなってきています。今年は去年以上に暑いという予報も出ているので、今から暑さ対策が必要になりそうです。
ここ数年巷ではSDGsやグリーンが賑わっていますが、温暖化対策が進んでいるのか気になりました。そこで温暖化対策のメインである、二酸化炭素の排出量を調べてみました。色々な考え方や測定方法があるのですが、今回は国際エネルギー機関(IEA)のレポートを参考にしました。『CO2 Emissions in 2023』 を見ると、コロナの影響が大きかった2020年以外は微増傾向が継続していました。
また東京都をはじめ日本全国で太陽光発電が盛んではありますが、私個人はこれに対しても疑いの目を持っており、なかなか導入に踏み切れていません。同じIEAのレポートを見ると、エネルギー消費によりCO2排出量は大幅に増えているが、太陽光発電などの貢献により増加幅が抑えられているようでした。
ライフサイクル(生産や破棄にかかるCO2排出量等)をどこまで考慮しているかなど詳しく確認しないと正確なことは言えませんが、太陽光発電がCO2排出量削減に貢献しているようです。その一方で、エネルギー当たりに対するCO2排出量が削減できていても、経済成長やデジタル化に伴うエネルギー消費が増えていると、CO2排出の絶対量削減が進まないのは当然だなと改めて思いました。
資本主義とCO2排出量削減は矛盾する!?
経済成長とCO2排出量削減の両立は難しいという当然のことを確認した時に、カール・マルクス(資本論)研究を行っている斎藤幸平氏を思い出しました。私が斎藤氏を知ったのは、NHK100分de名著の『資本論(カール・マルクス)』で解説する姿を見た時でした。斎藤氏は書籍『人新世の「資本論」』のなかで、資本主義が経済成長を追い求めざるを得ない状況について、以下のように解説しています。
資本主義は、コストカットのために、労働生産性を上げようとする。労働生産性が上がれば、より少ない人数で今までと同じ量の生産物を作ることができる。その場合、経済規模が同じままなら、失業者が生まれてしまう。だが資本主義のもとでは、失業者たちは生活していくことができないし、失業率が高いことを、政治家たちは嫌う。そのため雇用を守るために絶えず経済規模を拡張していくよう強い圧力がかかる。こうして、生産性を上げると、経済規模を拡大させざるを得なくなる。これが「生産性の罠」である。
人新世の「資本論」 斎藤幸平
確かに過去を振り返ると、パソコンやインターネットの発達によって仕事の効率性は格段に高まっているはずなのに、我々多くの日本人は昔以上に忙しくなっています。また将来AIやロボットが発達すれば人間は働かなくてもよくなるという夢物語まで出ていますが、このまま行くと今まで以上に忙しく働くことになるのだろうと予想できます。少なくなる仕事に対して、必死で奪い合うという状況になりかねないので必然でしょうか。
他国や未来にツケを回す、上辺だけの持続可能性!?
斎藤氏は書籍のなかで、『資本主義は自分達の不都合や矛盾を別のところへ転嫁することによって、自分達の視界から見えなくしている』とマルクスが主張していたと紹介しています。この転嫁とは二つあり、一つ目の『時間的転嫁』はCO2排出を沢山行うことで物質的な豊かさを現在の人びとが享受しておき、その影響を受けるのは未来の世代という気候問題が該当します。二つ目の空間的転嫁は、グローバルサウスと言われる国々で作られる農作物や製品を、先進国が輸入して消費するグローバル化のモデルです。輸出国の雇用を生み出している面もありますが、地域の土壌や森林などの環境を軽視した農法によりコストを抑えるなど、問題は山積みです。
これは資本主義においては、生産の目的が『利潤獲得』になっているため歯止めがかからず、自然への過度な介入が行われてしまうからだと言われています。本来生産というのは、自己の生活のためであったので過度な生産を行うこともなく、将来も継続的に土壌や環境を使用できるように自然との共存を当たり前に行ってきたのです。老子の言葉に『足るを知る』がありますが、今の資本主義は貨幣や金融(投資)なども相まって、無制限に物質的要求、そして貨幣的追求(利潤追求)が加速しているように感じてしまいます。
脱成長コミュニズムという新しい道
斎藤氏は過去(旧ソ連型)の社会主義でもなく、また今の資本主義でもない、経済成長を追い求めない新しい道の実現を、提案しています。
第三の道としての<コモン>は、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、自分達で民主主義的に管理することを目指す。(中略)国家のルールや市場的基準に任せずに、社会的に管理・運営していこう(省略)
人新世の「資本論」 斎藤幸平
現在では生産に必要な資源(エネルギーや素材)や生産手段は、経済(民間企業)と政府によって占領されており、我々市民は労働力を提供して生活の糧を得るしかない状況とも言えそうです。生産から直接的な利益を得る人達が連携してアソシエーション(コミュニティ)を形成し、これらの生産資源や手段を自分達で生産・管理することで、自分達の生活のために使用できる状態に取り戻そうという考えです。
バルセロナの具体的な事例も、取り上げられていました。バルセロナでは、民営化された水道によって質の低下と料金の高さに悩まされていました。またオーバーツーリズムにより、地元住民向けの賃貸物件がAirbnbなど民泊に転用されたことで、賃料高騰を招くなどの問題も起きていました。地域政党バルセロナ・コモンズのアダ・クラウ氏が中心となり問題の解決を進め、水道事業の再公営化や住空間のルール化など地域住民のための変革を進めたそうです。クラウ氏は、バルセロナ市長まで務められました。
『画一的成功』から『自分達の幸せに向けた成長』への転換を
私は資本主義のもとで洗脳されてきた『貨幣価値(お金で測れる成功)』という画一的な成功(経済成長)から距離を置くことが、持続可能な幸せの第一歩だと理解しました。そのためには自分が住む地域や所属する組織など身近な単位(アソシエーション、コミュニティ)に対する関心を高め、『自分達の幸せ』のために解決すべき課題を見つめ直すことから必要なのだと思います。
地域や組織など置かれている状況や、これまで培ってきた文化・価値観が異なれば、実現したい幸せも異なるはずです。真剣に向き合って目指す幸せや、それに向けた取り組み内容が明確になれば、一人一人が自分事として主体的に取り組めるようになります。このようなコミュニティが増え、それらが更に連帯することで、大きな変化へと繋がっていくのです。
地球温暖化など時間的猶予がない課題が山積みではありますが、まずは我々一人一人が出来る行動から始めることが重要なのだと思います。『Think globally, Act locally』という標語もありますが、視野を広げて情報や関心の輪は大きく持つ。そして行動にあたり、まずは自分の身近なことに集中する。行動に移すと他の活動を行う人達との交流機会や、協力機会が生まれてきます。まずは身近なところから、一緒に始めてみませんか。