社員と組織の成長 
~平和酒造: 幸福度倍増の低成長モデル~

皆さんは社外で行われる勉強会や交流会などに参加されていますか?私はいくつかの勉強会や交流会に参加していたのですが、新型コロナの影響で中止やオンラインに移行を余儀なくされていました。最近はwithコロナの生活様式も定着してきたので、少しずつリアルでの開催も増えてきました。

お世話になっている先輩が開催している勉強会(交流会)も再開されるようで、お誘いを頂きました。和歌山の平和酒造さんが東京の日本橋にオープンした『平和どぶろく兜町醸造所』で、どぶろくのお勉強とのことです。とはいえ当然そこには先輩の深い意図があり、老舗酒蔵を改革した山本典正社長の本の紹介も添えられていました。

早速『個が立つ組織 ~平和酒造4代目が考える幸福倍増の低成長モデル~(山本典正)』を読んでみると、これからの組織運営に対するヒントが至る所に書かれていると感じました。今回は書籍から共感した内容を引用しつつ、人(社員)を中心にした組織運営について紹介したいと思います。

  

目次

社員の成長を優先した低成長戦略

山本社長の経営方針のなかで、特に共感したのが社員の成長と会社の成長の捉え方です。

私は社員一人ひとりの人生を、それぞれ輝くものにしたいと思っている。一年一年共に成長できるようにしっかりと育てたい。(中略)
そしてこれが「人ありき」の低成長を選んだ理由でもある。社員達の成長に即して、売り上げを拡大していくというのが、平和酒造のやり方なのだ。社員が自分の成長を感じ、業績が上がる。そして社員がまたやる気を出す、すると業績が上がる・・・人の成長と会社の成長がいい循環で回り始めるのだ。

個が立つ組織 ~平和酒造4代目が考える幸福倍増の低成長モデル~(山本典正)

社員(個人)と会社(組織/経営)を対立軸として捉えるのではなく、社員一人ひとりが会社を構成する。そして社員一人一人の成長が、会社の成長に繋がる。当然のように聞こえるかもしれませんが、実際に徹底できている会社は多くないように感じています。

我々(ibg)もコンサルタント一人ひとりの成長と会社の成長を同時に目指すことを掲げています。

 

成長に必要な挑戦を促すには

社員の成長を優先するのは大切なことですが、『成長しろ!』というだけでは実現しません。成長の捉え方も様々ですが、これまでやれなかったことに挑戦し、失敗しながらも試行錯誤を繰り返した先に成長があるのではないでしょうか。ただ社員に挑戦してもらうことも、簡単ではありません。

社員が成長するには「誰からも攻撃されない」という安全な環境が必要なのだ。失敗しても評価が下がらないどころか、むしろ多少の失敗は賞賛されるくらいの環境のほうが、社員の成長を促す。

個が立つ組織 ~平和酒造4代目が考える幸福倍増の低成長モデル~(山本典正)

もちろん評価だけでなく、社員一人ひとりの挑戦を促す色々な施策を打たれています。会社としてのアカウントに加え、社員個人のアカウントからTwitterやFacebookなどのSNSを通じて、仕事や商品などの情報を積極的に発信されています。アカウントを個人名義にすることにより、情報発信に対する心理的ハードルを下げているとのことでした。

特にB2Cビジネスでは、会社やブランド、商品のファンを作り、関係を強めることで、安定した売上に繋げる戦略が増えてきています。アウトドアメーカーのスノーピークや、よなよなエールで有名なヤッホーブルーイングは、ファンイベントで有名です。

SNSやウェブなどを活用することにより、消費者と社員一人ひとりが繋がることが出来る時代になっています。社員個人として消費者や社会に情報を発信できる仕組みは、社員の挑戦を促すとともに顧客との繋がりも強める。一石二鳥の素敵な施策だと感じました。

 

一緒に成長したい人材を選ぶ採用プロセス

会社の成長を託す相手であり、また一緒に成長する仲間である社員なので、その相手を見つけるのはお見合い同様難しくなります。山本社長の採用面接に対する考え方にも、とても共感しました。

私は性善説に基づいた組織づくりをしたい。同じ目線、同じ志で歩む人であれば、入社後に安心して仕事を任せられる。逆にそこで疑わなければいけない人であれば確認作業や方向性のすり合わせを都度行われなければいけない。要するに入社前に時間をかけるか、入社後に時間をかけるかの違いなのだ。

個が立つ組織 ~平和酒造4代目が考える幸福倍増の低成長モデル~(山本典正)

目指す先(志)や判断軸(目線)が揃っていれば、社員は自ら動くし、その行動は組織が期待しているものから大きくずれることは少ない。学歴や経験、スキルなどは、目指す先があれば挑戦し成長しながら身に着けることも出来るが、その原動力となる志を変えることは難しい。

常に監視していないと働いてくれないと困っている管理職や経営者は、採用プロセスに積極的に関わり、採用の評価基準を見直してみては如何でしょうか。

 

志を持つ人材は存在するか?

採用の際に『志』にも注意を払いましょうというと、
 ・最近の若者は理想や希望ばかりが高く、下積みの仕事を嫌いすぐ辞めてしまう。
 ・そもそも仕事には給与しか求めておらず、仕事を割り切って捉えている。
など、世代間ギャップに戸惑っているという声もよく聞きます。

これについて山本社長は、若者を以下のように捉えています。

若手従業員は、技術を伝えても数年で辞めてしまうかもしれない。だから、下働きをさせて「我慢して先輩の言うことを聞き続けられる人間か」を試していたのである。しかし現代の若者は、自己実現できる会社かどうかを重要視している。我慢比べを許容できる世代ではない。こうした新入社員を受け入れる組織態勢が整っていない場合、すぐにやめてしまうことも多い。

個が立つ組織 ~平和酒造4代目が考える幸福倍増の低成長モデル~(山本典正)

働くことの意義や仕事の捉え方(仕事観)が変化してきているということは、私も強く感じています。以下の山本社長の言葉が、仕事観の変化を分かりやすく表現されています。

歴史が変わっても変わらない、働くことの意義だ。それは自分も含めて人のためになるということだ。しかし、現代社会で人間はそれを見失っていた。古代から中世にかけて王が誕生して以降、いつしか支配者のための労役として働く、つまり労働が苦役に変わった時代があった。その意識を未だ引きずっているかのように思う。社会が豊かになった今、働くことは自己実現の手段でもある。今後、その価値を社会全体が認識していくだろう。

個が立つ組織 ~平和酒造4代目が考える幸福倍増の低成長モデル~(山本典正)

社員を中心に置いた経営、社員と会社を重ねた経営など、これまでと異なる組織運営が求められていると感じる経営者や管理者も多いと思います。これまで長年行ってきたことを変えることは、とても大変ですし時間もかかります。ただ皆さんが動き出さないと、変わることは決してありません。

平和酒造さんには、『紀土』というブランドの日本酒に加え、クラフトビールや『鶴梅』という梅酒など、こだわり抜かれた色々なお酒を出されています。美味しいお酒を飲みながら、リラックスして山本社長の本を読めば、頭が柔軟になり新しい組織運営のヒントが見えてくるかもしれません。

 

参考:私の読書メモの方法

前回のブログで紹介した『迷子になる地図のノート』を使って、読書メモを行っています。

見開きの上のページには、気になったり、共感した内容をメモし、自分が考えたことや思ったことも書きます。そして読み終えた後に、下のページに6つの視点で整理しながら、更に深く考えたり、流れを整理したりしています。

私の読書メモ(見開きの上ページ)
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