入社式に関する記事から 
~アップデートが必要なこと~

複数の情報源から自分で取捨選択

同じテーマでもメディアによって捉え方や伝え方が大きく異なるので、複数のメディアから情報を集め自分でバランスをとることが大切になっています。ネット上では情報が溢れ、広告記事やフェイクニュースまで紛れ込んでおり、自ら取捨選択することの重要性は高まっています。

日本語だけでなく、英語やその他の言語で発信されている情報も含めて広く捉えることが必要なのですが、ついつい日本語のメディアや情報に偏ってしまいます。様々な国籍や専門領域を持つ人たちが記事やコラムを書いているニューズウィーク日本版は、視野を広げる一つの情報源になっています。

今週号のニューズウィークでフランス出身の記者が、日本の某家電量販店を運営する会社の入社式に参加して感じたことを書いたコラム記事から、私が考えたことを共有します。

 

『自分で考えて行動する』という言葉に対する理解の違い

今回取り上げるコラム記事は、フランス出身の西村カリン氏のコラムです。気になった箇所を、引用します。

社長は「上司が言うことはどうでもいい。大事なのは自分で考えて行動すること」とも強調した。ただ、それは目の前の光景ととても矛盾する内容ではないかと私は思った。皆同じ制服のようなスーツを着て、皆同じような姿勢を取る。皆同時に同じ言葉を聞いて、同時にメモを取る。

「自分で考えて行動する」とは真逆の態度だが、おそらく社長はそれを求めている。おそらく全ての新入社員も「自分で考えて」その態度を決めた。この「自分で考えて行動する」について、フランス人の理解と日本人の理解は異なるようだ。

私からすると「自分で考えて行動する=自由に決めて自由にやる」。でも、たぶん多くの日本人にとっては「自分で考えて行動する=相手が望んでいる態度をよく理解した上で行動する」。教育や社会環境によって、言葉の意味が大きく異なることに改めて気付いた。

入社式で語ってほしかったこと  西村カリン (ニューズウィーク日本版2022年4月19日号)

日本は『社会のなかで個人(自分)をどう存在させるか』という意識が強いので、相手(社会)の理解が大切にされています。一方フランスは、『個人(自分)が起点で、社会(相手)とどう付き合うか』という考え方が強く、自分で考えるということは自分がどうしたいか(=自由)ということになるのでしょう。

  

自分(自己)不在の行動の先には、

フランス人と日本人で相反する態度のように見えますが、結局同じことが求められていると思いました。自分で考えて行動するということは『手段』であり、その先には『目的』があるはずです。フランス人も、自分が考えた自由を実現するためには、相手や周りとのバランスが必要です。

私たちが気を付けないといけないのは、日本人の多くが本来手段であるはずの『相手が望んでいることを理解して行動する』こと自体を、目的にしてしまいがちだということです。記事に出てきているように、社長や会社、上司の期待する言動を取ることが目的になり、自分がしたいことが無くなってしまうと危険です。

意思を持たないロボットと化し、誰がその仕事に取り組んでも同じ結果にしかならなくなります。この日本企業・社会の特徴が、国際競争力の低下にもつながっているのではないでしょうか。また何よりも、個人の幸せを高める障害にもなっていると思います。

 

価値観の押し売りではなく、考える機会の提供を

同じ記事のなかで、強く共感した内容もありました。

日本の大企業の多くの経営者は60~70代だ。新入社員の親世代より年を取っているだけに、社会や人生に対する価値観、考え方が若者とは異なる。人生で大切なことは仕事での成功や成長に限らない。入社式という場でももっと幅広い人生の意味を語ることが望ましいのではないか。

入社式で語ってほしかったこと  西村カリン (ニューズウィーク日本版2022年4月19日号)

入社式に限らず、多くの企業で経営者・管理職と若手・新人の間でのコミュニケーション問題をよく目にします。世代間のギャップは昔から存在していたのですが、共働きや日本の競争力低下など環境面の変化も大きく、両者の間で対話が成立しないケースが増えているのではないでしょうか。

経営者や管理職は自分たちと若手の間で考え方や価値観の差があることを前提として、相手に自分の考えを押し付けるのではなく、若者が様々な考えに触れるなかで自分の価値観を明確にする支援をして欲しいと思っています。

記事の社長スピーチでは、『仕事中心で過ごし、成功することが幸せ』であるという自分の価値観を前提とした話になっています。皆さんの身の回りでも年長者から若年者へ、自分の価値観や考えを押しつけたり、説得しているケースが多いのではないでしょうか。そして若者は自分と年長者とのギャップや違和感を伝えることをあきらめ、黙り込んだり、表面的に受け流している人が多いように感じます。

 

努力や我武者羅(ガムシャラ)を、意味のある行動にするために

経営者や管理職が若手に対して、『がむしゃらに働いてほしい』、『努力して欲しい』と話すことも多いです。トヨタの豊田章男社長も、入社式でいつも言われているそうです。

これまでの入社式で、私が、必ずお話してきたことがあります。 それは、「とにかく3年間、ガムシャラに働いてほしい」ということと 「クルマを好きになってほしい」ということです。

2021 年 4 月入社式 豊田社長あいさつ全文

努力やガムシャラが大切なことであることを、否定はしません。ただ努力自体が目的になると、もったいないと感じています。努力というのは、ある目標や目的を達成するための手段であるはずです。まず目標や目的を明確にしたうえで、ガムシャラに努力することが重要です。

豊田社長も入社式の挨拶のなかで、新入社員の上司に対して以下のメッセージを出されていました。

上司の方々は、職場の一人ひとりに寄り添い、その成長と活躍を 自分自身の喜びにしてください。  そのためにも、業務を付与するときには十分な情報共有をして 仕事の目的、納期、優先順位を明確にしてあげてください。  全員が「仕事の意味」を腹に落として働ける職場づくりを お願いしたいと思います。

2021 年 4 月入社式 豊田社長あいさつ全文

 

コミュニケーションのアップデートを

日本全体が成長している時代や、グローバル化に伴い企業が成長している時代は、会社や上司を信じ、命じられた仕事をガムシャラに取り組めば、その先の幸せが約束されていました。このような環境も変化しており、若手社員は自分たちの将来や幸せを会社や上司が保証してくれない(保証できない)ことを理解しています。

仕事に対してガムシャラに努力するためにも、自分のなかでその仕事の意味に共感することが必要になっています。『自分の時代は、丁寧に説明してくれる上司はいなかった。そんななかでもガムシャラにやってきて、今の成功を勝ち取ってきたんだ。』と思われる経営者や管理職も多いと思いますが、時代の変化とともにコミュニケーションのあり方もアップデートが必要になっているのではないでしょうか。

世代間だけでなく、色々な価値観や考え方の違いを多様性としてプラスに転換していくために、アップデートする必要があることは、たくさんありそうですね。