部下との関わり方をアップデートしよう ~状況対応型リーダーシップ(SL理論)~

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旧態依然から抜け出せない日本企業と管理職

昭和と令和の違いをテーマにしたテレビドラマが、流行しました。それぞれの時代に良さや問題はあるものの、その背景や理由まで踏み込んで考えることが大切だと感じました。コンプライアンス(法令順守)やダイバーシティ(多様性)は大切ですが、変化をしない自分を正当化したり、相手に深く踏み込んで対話することを避ける言い訳にするのは本末転倒ですね。

時代の変化に伴い、ピラミッド型組織によるトップダウンのマネジメントスタイルから抜け出す必要性を感じている企業も増えています。また社員の価値観の変化により、一方的な指示命令によるマネジメントから転換するように、管理職に変化を促している企業が主流になりつつあります。

ところが多くの管理職は、部下たちへの新しい関わり方に戸惑っています。

  • 部下の自律を促すために具体的な指示をしてはいけないが、上手く仕事が進まない
  • 1on1では部下の話を聞くことが求められるが、部下からの話が続かない

このような状況を見ていて、状況対応型リーダーシップ(SL理論)を思い出しました。知識としては知っていても、なかなか実行するのが難しいのが理論です。今日はSL理論の提唱者であるケン・ブランチャードの書籍『一分間リーダーシップ』を紹介しながら、マネジメントスタイル変化のヒントになる情報を提供できればと思います。

 

新しい組織運営において、管理職に求められる役割

ケン・ブランチャードは書籍のなかで、ピラミッド型組織と逆ピラミッド型組織における管理職と部下の役割の違いを以下のように説明しています。

管理職の役割の違い

(管理職の仕事とは、)何でも自分でやるということではないし、さりとて椅子に深く腰を下ろしたままで、『部下の間違いを見つけて文句を言う』ことでもなくなります。袖をたくし上げ、部下が勝者になるのを助けることになります。(中略)部下の誰も彼もすべて細かく面倒をみる必要は少しもないのです。援助が必要な人だけでいいのです。

一分間リーダーシップ K・ブランチャード、P・ジガーミ+D・ジガーミ

つまり今求められているのは、部下一人一人の状況(Situation)に応じたマネジメント(Leadership)が必要ということですね。それではどのようにして、援助が必要な人を見つけ出せばいいのでしょうか。まずは異なる状況について、具体的に紹介します。

 

人は誰でも最初は『熱心な初心者』!?

仕事に取り組む状況の変化について書かれている内容を、以下のようにまとめました。

仕事に取り組む状況の変化

『適性能力(コンピテンス)』とは、仕事に取り組むために必要となる知識と技能のことで、これが低いと一人で仕事を進めることは困難で上司が手取り足取り指導する必要があります。これらは教育や訓練、経験を通して身に着けることができるので、段々と高めることができるのです。

もう一方の『やる気(コミットメント)』は仕事に対する取り組み姿勢のことで、周りからの多くのサポートがなくても一人である程度仕事をこなすことができるという自己確信(自信)と、その仕事を立派にやることに対する興味関心の高さ(動機付け)から構成されています。

興味深いのはやる気に燃えて仕事を始めた人が、急にやる気を下げている部分です(上図の赤丸)。これについては、以下のように書籍で書かれています。

人間というのは、実際に仕事を手掛けてみると、当人が考えていた以上に、その習得が難しいとわかり、興味を失うことがよくありますね。あるいは、これだけ自分が努力しているにもかかわらず、報われていないと考えて、やる気をなくすことがあります。(中略)あるいはまた、伸びが鈍いとか、全然進歩がないために、仕事をきちんと覚える能力がないのではないかと自信を失ってしまうこともある。

一分間リーダーシップ K・ブランチャード、P・ジガーミ+D・ジガーミ

管理職は部下の仕事に対する状況の変化を把握し、仕事の能力だけではなく、やる気の変化にも目配せすることが大切なのです。日頃から仕事の成果を評価するだけでなく、1on1や対話から部下の気持ちの変化を把握することが、管理職の大切な仕事なのです。

 

部下の状況変化に応じた、4つのリーダーシップ(関わり方)

書籍では上司の部下への関わり方について、『指示』と『支援』という2つの視点で整理されています。

4つのリーダーシップスタイル

『指示的行動』(上図横軸)は部下の仕事について、何をするのか、どのような方法でするのか、どこで行うのか、いつするのかをはっきりと部下に告げ、その遂行を細かく監督することです。仕事に興味と期待を持って取り組み始めた初心者は、上司の具体的な指示命令に対しても自分の成長に繋がると信じているので積極的に受け入れてくれます。一方仕事を覚えてきて自分である程度できるようになると、細かく指示されると信頼されていないと感じて過度な干渉を嫌がります。そのため部下の適性能力の成長に応じて、徐々に指示的行動を減らします。

一方の『援助的行動』(上図縦軸)は、部下の話をよく聞き、その努力に対して援助や支持、励ましを与え、問題解決や意思決定への参加を促すようにすることです。仕事や成長への壁を感じて自信を失っている部下には、明確な成長目標を一緒に立てて成長を感じられるよう頻繁にフィードバックを行うことが必要です。また日々の仕事に追われ仕事の意義(パーパス)を見失いかけている部下には、組織や個人の意志や意義を思い出すための対話が必要でしょう。成熟してくると仕事に対する動機づけが確立され、自分の仕事に対する評価も適切に自分でできるようになるので、援助的行動も少しずつ減らすことができます。

部下の自律を促すと言っても、右も左も分からない初心者に仕事を任せても、上司が期待する仕事を部下が遂行することは不可能ですし、部下も途方に暮れてしまうでしょう。大切なのは、部下の状況に応じて関わり方を上司である自分が変えていくことです。また同じ部下でも仕事の内容が変われば、当然状況が変わってくるので注意が必要です。

 

部下と認識を合わせて、業績と信頼関係に結び付けよう

紹介した状況対応型リーダーシップを適用する時には、部下との認識合わせが必須になります。部下からすると、人によって上司の接し方が異なると不安を感じる人もいるでしょう。適性能力が成熟していない人にとっては、他の人よりも自分にだけ指示命令が多いと、信頼されていないと感じてしまうかもしれません。逆に適性能力もやる気も高い人からすると、他の人よりも自分にだけ上司が時間をかけていないと、ほったらかされていると誤解されるかもしれません。

  1. 目標(目的と、それに向けた課題)
  2. 遂行状況の測定方法(進捗管理方法)
  3. 上司の関わり方(上司への期待)

これらは一つ一つ部下と上司が話し合い合意の上で、進めていくことが大切です。そして定期的に部下の状況を観察し、その結果を部下にフィードバックしながら必要に応じて上司の関わり方を変えていくのです。上司と部下と言っても、やはり赤の他人です。頻繁に対話することが、仕事を円滑にして業績を上げ、上司と部下の強い信頼関係を築く一番の近道ではないでしょうか?

 

今回紹介した部下への関わり方は、子供にも応用が可能です。算数を習い始めたばかりの子供への対応は、熱心な初心者に対する上司の関わり方が最適でしょう。また算数に対して苦手意識を持ってしまった子供には、指示的行動と援助的行動を増やし積極的に関わってあげることで自信を取り戻してあげましょう。

部下育成も子供教育も実行の難しさはありますが、部下や子供の幸せのためにも、一緒に頑張っていきましょう。

 

おまけ:海外からも参考にされる、日本の人材育成の神!?

書籍では、部下のやる気を伸ばす5つのステップも紹介されていました。

『第1』のステップは『何をするかを知らせること』でしょう(中略)
『第2』のステップは、『何をすべきかを示す』、つまり模範行動をやってみせる(中略)
『第3』のステップ、『やらせてみる』ことです(中略)
『第4』のステップである遂行行動の観察(中略)
『第5』のステップは『進歩を賞賛する』

一分間リーダーシップ K・ブランチャード、P・ジガーミ+D・ジガーミ

気付かれた方もいると思いますが、山本五十六の『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』という言葉そのものです。またその後に続く、『話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。』という言葉も、紹介した4つのリーダーシップスタイルと共通しています。

日本人が大切にしてきたことを思い出し実行することで、日本を元気な状態にしていきたいですね。