人が生き生きとする場所を作るには
~パターン・ランゲッジ~

目次

名著との出会いは突然に

以前から街づくり(地域振興等含め)に興味がありました。また最近は、建築やデザインにも惹かれています。そんな話をしたところ、とても魅力的な書籍を紹介いただきました。都市計画家・建築家のクリストファー・アレクサンダー氏は、心地よい建物や街をつくる方法を、『パターン・ランゲージ』という理論によって示した人です。その入門書的な位置づけでもある書籍を読んだところ、共感したポイントが多い上に、組織(会社)作りにも通じる点がたくさん見つかりました。

自分の視野や興味を広げるには、やはり他の人から紹介されたコトに挑戦するのが大切です。今回は組織運営(作り)にも役立つポイントを、紹介します。

 

自分達が関わるから、生き生きとできる

アレクサンダー氏は計画的に作られた『人工都市』と、歴史的な時間を経て自然にできた『自然都市』の二つの概念があると述べています。そして人が生き生きと出来るのは自然都市であると考え、自然都市が持つ特徴を253のパターン(型)に整理し、それらを言語化(ランゲ―ジ化)して定義しています。自然都市では住民たちがパターン・ランゲージを感覚的に理解しており、自分達の家やコミュニティ形成を通して居心地の良い都市づくりに参画しているのです。

人が生き生きとするのは、ひたむきな気持ちで自分に正直で、自己の内面の力に忠実で、自分の置かれた状況に逆らわず自由に振舞える時である。(中略)幸福であることと、生き生きとしていることは同義語である。

時を超えた建設の道 クリストファー・アレクサンダー

効率化を追求し業務を細分化することで仕事を作業に変え、関わる人(社員)には作業をこなすことだけを求める『従来型組織』。一人一人の働く目的や価値観を尊重し、お互いが協力し合って仕事を行うことで、構成員が組織の漸進的な成長に関わっている『有機的な組織』。若者を中心に生き生きとできる環境を仕事にも求め、有機的な組織(会社)に人気が集まっています。東京一極集中が問題になっていますが、自分の本心に素直な人から自然都市への移住も増えているように感じています。

以前ブログ『不自然な都会を抜け出そう~隈研吾氏×養老孟司氏の対談①~』でも書きましたが、私が都会よりも田舎に惹かれているのは自然都市を求めているからなのかもしれません。

 

言葉は文化をあらわし、人の思考や創造を生み出す

言葉(言語)についても、アレクサンダー氏と共通する考えを見つけました。

自分の想像する生命の源は、自分のもつランゲージの力に左右される。
自分のランゲージが空虚であれば、自分の作る建物は充実したものになり得ない。
自分のランゲージが貧弱であれば、それを豊かにしない限り良い建物はつくれない。(中略)
作り手の頭にパターン・ランゲージがなければ、何もつくれない。

時を超えた建設の道 クリストファー・アレクサンダー

好川さんが以前ブログ『うどんを食べて日本や日本語を考える ~母国語の大切さ~』で『人は母国語で思考するのです。(中略)日本語の背景には日本や日本文化がある。アメリカ人の英語(米語)にはアメリカ文化があり、それらは人種や地域や時代によって異なる。』と書いていました。アレクサンダー氏は住民が共通して心地よいと感じるモノをパターンと呼び、それを言語化しています。我々は共通して心地よいと感じる価値観や習慣は文化であり、その文化が言葉を生み出している。そしてその言葉により、我々の言動が生み出されると思っています。企業文化を言語化した企業理念や価値観は、社員達が共感できる内容であり、社員達の日々の言動の土台になっているのが本来の姿なのでしょう。

 

集団活動の成功要因は『共通言語』

住民一人一人が関わり、都市を形成していく。当然数百、数千の人びとが自分勝手に建物を建てていれば、居心地の良い都市は形成されません。そこで重要になるのが、共通言語であるパターン・ランゲージです。

発生プロセスが健全になるのは、それを制御するランゲージが人びとに広く普及し、共有される場合に限られるということである。(中略)人びとが集団で何かをしようとして、たいてい失敗するのは、各段階で抱く各人の仮説がそれぞれ異なるからであるのだが、ランゲージがあればそれらの仮説が最初から完全に明白なものになる。

時を超えた建設の道 クリストファー・アレクサンダー

構成員(住民・社員)の間で共通の認識が多ければ多いほど、コミュニケーションは円滑に行われます。またお互いの言動の意図(目的)を理解することも容易になるので、共通の目的に向けて高度な協業が可能になります。企業が目指す姿(ビジョン)や存在意義(パーパス)、大切にする価値観などを言語化して社員に浸透しようとするのは、共通言語を増やすことで社員が連携して活動できる環境を整備しているのです。ただ残念ながら多くの日本企業では社内に共通言語が少なく、社内でもコミュニケーションが成立していない場面に出くわすことがあります。一方で社内の共通言語の重要性を感じ、社内での読書会や座談会を積極的に取り入れている経営者も増えています。

 

生き生きとした『まちづくり』の事例

少子高齢化や東京一極集中などに対応するため、多くの地方自治体では町おこしに取り組まれています。地域の住民が主体となって取り組んでいる町がある一方で、コンサルタントに提供されたテンプレートをそのままにした企画案を出している自治体も見られます。町おこしには、成功事例に共通する方法論があるのも事実でしょう。ただ方法論を自分達の地域の文化や生活に落とし込み実行していくには、地域の人たちの関りが欠かせません。

地域住民が一丸となって連携して取り組むために、パターン・ランゲージを活用している事例もたくさんあります。

  • 川越一番街 町づくり規範 (埼玉県)
  • 高松丸亀町商店街 再開発 (香川県)
  • 真鶴町まちづくり条例/美の条例 (神奈川県)

またパターン・ランゲージを活用したわけではありませんが、先祖代々町を守ってきた住民の力に加え、海外から移住してきたアメリカの若者により劇的なまちづくりを成し遂げた小布施町(長野県)も、学ぶ点がたくさんあります。

 

仕事や地元での生活が、日本を生き生きした場所に変えることに繋がると素敵です。そのために、出来ることに一歩ずつ取り組みたいと思います。