日本代表の活躍に沸くスポーツ界
バスケワールドカップでの日本男子代表は、スポーツのワクワク感を思い出させてくれる試合の連続でした。普段バスケには興味がなく、漫画スラムダンクも読んでいない私ですが、ワールドカップの日本戦は見入ってしまいました。無事オリンピックの切符を掴めたので、一年後の更なる感動とワクワクを期待してしまいます。
今年はワールドベースボールでの優勝もありました。女子サッカーワールドカップも結果はベスト8でしたが、それまでは圧倒的な強さを見せていました。9月からはラグビーのワールドカップが始まるので、期待が高まります。
様々な種目で、日本チームの活躍が広がっています。日本チーム活躍の要因は何なのか?色々あると思いますが、私は監督に興味を持っています。色々な監督の本やインタビュー記事を読むようになりました。バスケ男子の監督であるトム・ホーバス氏とラグビー日本元監督であるエディー・ジョーンズ氏の過去の対談記事から、『日本スポーツ界復活の要因』と『日本ビジネス界復活のヒント』が見えてきました。
根性論の練習が日本選手の弱体化を招いている
ホーバス氏(TH)、ジョーンズ氏(EJ)ともに日本生活が長く、また奥様が日本人でもある日本通です。そして共に日本代表を率いて、すばらしい成績を収められた名将です。そんな二人の対話には、はっとさせられることの連続でした。
TH:(2016年オリンピック準々決勝で敗れた日本女子バスケチームは、)格上のチームを倒すだけの自信を欠いていたことが見えてきました。(中略)自分たちが到達できると想像していない領域まで彼女たちを追い込むと、それをクリアしてくれました。当然、それは自信につながっていきますし、オリンピックを迎える時点で、世界中のどの国よりもハードな練習をしたことが選手たちの自信を生んだのです。
対談インタビュー記事より
私が日本を代表して戦っている一流のアスリートに対して言う資格は無いのですが、日本人や日本チームは格上と戦う時には、どことなく萎縮してしまったり、不安そうな雰囲気を感じることがあります。そんな日本代表に対して、ホーバス監督は練習に対する意識を変えることで選手たちの自信を高められたそうです。
EJ: 彼らは指導者から課される「根性練習」の中で育ってきています。すると、どうなるか? 選手たちは体力を温存し、配分しようとします。それは人間として当然の反応なのです。練習は予定された時間が来たら終わるのではなく、成果によって終わるタイミングを判断するべきです。(中略)
対談インタビュー記事より
TH: 日本女子バスケのカルチャーとして、とにかく体育館にいて練習することを美徳とする考えがあります。ただし、集中力が散漫になり、決して効率的とは言えない。
EJ: 体育館にいること自体が目的になってしまう選手もいるでしょうからね。
TH: 体育館にいるのなら、何も考えないでシュート練習をするのではなく、課題を明確にするように伝えたんです。
EJ: 問題となるのは、課題なき長時間トレーニングです。今までお話ししてきたように、日本の指導者は長時間拘束することで、選手たちの集中力を奪っているのです。
私も中学・高校と部活に取り組み、週7日長時間の練習に励んでいました。当時の自分からすると一生懸命練習をしていたつもりでしたらが、今振り返ってみると練習に対する集中力がなかったり、練習一つ一つに対する目的意識が低かったなと感じます。結局は毎日長時間練習をするという前提で、体力を配分しながら練習に取り組むので、真剣さも欠けていた。だから特に格上相手の試合になると自信が持てず、負けていたのだなと今更ながら反省させられました。
この日本スポーツ界に長きにわたり蔓延ってきた、練習時間を長くすればいいという価値観や美徳を変え、成績という結果まで出した二人の監督は素晴らしいなと感じました。
Z世代との関わり方
対談記事の中では、1990年代から2000年代後半に生まれた『Z世代』の選手たちとの関わり方についても話題に挙がっていました。
EJ: 私は、この世代はチームという集合体に積極的にかかわろうとしていると考えています。それに合わせ、私も選手に対してプレッシャーをかける時と、引いて見守るバランスを重視して指導するようになりました。練習で何かを達成しようとするなら、最初の半分を指し示し、残りの半分は選手たちが自力で獲得するようにスタイルを変えています。(中略)ミーティングはコーチが一方的に情報を伝える場ではなくなりました。選手たちを巻き込み、積極的に議論に加わらせるスキルも必要です。
対談インタビュー記事より
TH: (中略)私はオリンピックで、チームの「原則」だけを決め、試合中の判断は選手たちに委ねました。すると、原則を理解した12人は、私さえ驚くような創造的なプレーを見せてくれました。(中略)私はジェネレーションZを導くためには、すべてを与えるのではなく、コーチが全体像を示し、選手たちがパズルを完成させるというアプローチを採った方が効果的だと思います。
EJ: 20年前、コーチの仕事のほとんどは先頭に立って選手を引っ張っていくことでした。それが今は、後押しすることに仕事が変わったと思います。
これまでは監督自らが先頭に立って決め、選手たちに指示をして引っ張っていくことで良い成績を収めてきた。今は選手たちが思うように動けるように大きな絵や方針(ゲームプラン)を伝えることで、選手たちが活躍し格上にも負けないチームに成長している。こういった監督の役割や姿勢の変化が様々な種目で起きているので、活躍しているチームを見ていると選手一人一人が楽しそうだったり、生き生きと自由にプレーしているように感じるのですね。こういったプレーは、観衆にもワクワクや楽しさを与えてくれます。
両監督は『選手を信じること』が監督の一番の仕事だと言われており、また選手たちから『監督に信用されている』という発言をよく聞いていたので、納得感があります。
今年の夏の甲子園で優勝した慶応高校にも、共通する点がたくさんあるように感じます。
名監督たちから日本企業へのエール!?
二人の名監督の対談を読んでいて、スポーツとビジネスの問題が重なりました。
- 長時間会社で働くことを美徳とする多くの日本企業の文化
→一日中会議で埋め尽くし、自分で考える時間をなくしている管理職
→長時間労働や過労を強いられ、指示されたタスクをこなすだけになる現場 - 数値に基づいたビジネスモデルやビジョンを提示できない企業のリーダー
→目の前の仕事に対する目的意識の低下、やらされ仕事に忙殺される毎日 - 自分が部下に考えや指示を伝えることが、コミュニケーションだと思い込む管理職
→部下への関心や信頼(愛)を欠いた一方的な関係で、若い優秀な社員が辞めていく
実はホーバス監督はトヨタ自動車で選手としてプレーしていた時、日中は国際マーケティングの仕事に就いていたそうです。伝統的な日本企業で働いた経験もあるホーバス監督は日本企業の問題点を見抜いて、日本企業の復活に向けたヒントを我々に送ってくれているのではないかなとも感じました。
- 長時間働くことを美徳とする文化を変え、人生における時間の意義を考えなおす
- リーダー(経営者や管理職)の役割を変え、部下や社員との信頼関係(愛)を築く
『時間』と『愛』に対する感覚を取り戻すことで、ビジネス界でも日本代表(日本企業)が活躍する時代をもう一度作ることが出来るのではないでしょうか。興味を持たれた方は、是非対談記事も読んでみてください。