知人が子育てをする息子夫婦にモヤモヤした話
幼い孫が遊びに来て三週間ほど子守をしていた知人が、モヤモヤした気持ちを共有してくれました。
<知人の発言>
私は『余裕と無駄』が大切だと思って、これまで生きてきた。無駄と思われる事がコミュニケーションを促進させるし、余裕があってはじめて相手の立場をセンス(感知)することができる。そして状況に応じてレスポンス(反応)することが可能になる。つまり相手に気遣いさせないように気配りすることにつながり、私の価値判断の基準でもある。
一方息子夫婦は二人ともアメリカで専門職に就いており、どうしても子育ては効率を優先させざるをえず、生活に無駄と余裕がない。今回息子夫婦や孫たちと共に過ごすなかで、私が大切にしてきたことが息子夫婦や孫に十分に伝わっていないことに改めて気付いた。
息子さんたちとの関係は良好だそうですが、息子さんが18歳の時から一緒に暮らしていないそうです(現在30代半ば)。そのため息子さんが子育てをするようになった時に、『大切にして欲しいこと』を改めて伝えることが足りていなかったと感じたそうです。つまり知人が大切にしてきた価値観が、息子夫婦を通じて孫に伝わっていないことにモヤモヤとした感情が残ったとのことでした。『子供が自分の子供(孫)を育てられることを見届けて、子育ては卒業だよ』と言われている、知人らしい話だなと思いました。
私は童話『モモ』に出てくる時間に対する考え方が好きで、心を感じられる余裕が保てるように意識しているので、幸い子供たちと過ごす時間はたくさんあります。さぼり癖があるというわけではありません。
光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないもおなじだ。
モモ/ミヒャエル・エンデ より
ただ子供たちと一緒に時間を過ごすなかで、何を引き継いでもらいたいのかについてあまり考えたことがありませんでした。親が子供に価値観を押し付けるのは良くないのですが、自分が大切だと思うことについては理解してもらいたいですし、共感してもらえれば引き継いでもらいたいのが親心です。またこれが、子育ての目的にもなるのだと思います。
『相手への感謝』と『周りへの気遣い』
時間を少し取って改めて考えたところ、私が子供に引き継ぎたいこと(大切にして欲しいこと)は、以下の二つが思い浮かびました。
- 相手に感謝する気持ちを大切にする
- 周りへの気遣いを忘れない
一つ目はシンプルなことですが、日頃からバスの運転手さんや店員さんに御礼を言ったり、家庭でも何かしてもらったら『ありがとう』を言うように意識しています。最近小学生の娘は怒っていてる時でも、怒り口調で『ありがとう』とは必ず言うので、感謝を伝える習慣は身についているようです。怒りながらの『ありがとう』をかわいいと感じる私は、親バカですね。
一方で二つ目の『周りへの気遣い』については、難しさを感じています。『他人に迷惑をかけるな』と言われて育った私の性格もあり、子供たちが外で周りの迷惑になりそうな時は直ぐに止めたり、叱ったりしてしまいます。近い年齢の子供を持つ友人家族と出かける機会も増えているのですが、そこでもついつい子供たちを叱ってしまいます。妻からも最近、『他のお父さんたちは、もっとおおらかじゃない。あなたは子供たちに厳しすぎる、神経質すぎだ。』と言われてしまいました。
ネットで調べてみると、『人に迷惑をかけるなと言われて育った親は、子供が他人に迷惑をかけていると感じることにストレスを受けやすい傾向があり、イライラして叱ってしまう』という話もありました。
周りへの気遣いが大切な理由
私は子供に対して自分のように、他人に迷惑をかけることにストレスを感じるようになって欲しいわけではありません。また周りに迷惑がかかるからという理由だけで、自分がやりたいと思うことを我慢したり、自分を押し殺したりして欲しいわけでもありません。
それではなぜ、『他人への気遣い』を大切にして欲しいのか。掘り下げて考えてみると、自分がやりたいことを実現するためには、どの様な事でも他人との関わりや協力が必要だと強く感じているからだということに気が付きました。
他人への理解力(empathy)が弱い人が、最近増えてきているように感じています。相手のことを理解できなかったり軽視しているために、会話が成立していなかったり、お互いが気持ちよく過ごせていない場面に遭遇します。(もちろん他人に対して敏感すぎるために、なかなか自分の主張を伝えられない私にも問題があるのですが。)
子供には何か自分のやりたいことをする時に、それが周りにとってどんな影響がありそうなのか考えてみて欲しい。そして周りに迷惑になる場合は、それで自分のやりたいことを諦めるのではなく、どうすれば周りへの悪い影響を減らすことができるか自ら考えて欲しい。
これは大人でも難しいことだとはわかっているのですが、相手に対して敏感になれる(理解できる、共感できる)には経験の積み重ねが必要だからです。子供の頃から少しずつ経験して、周りのことを感じ取れるようになって欲しい。ただそれだけでは周りのために自分を押し殺す不幸な人生になってしまうので、自分がやりたいことを見つけて欲しい。あくまでも周りへの理解や共感は、社会のなかで自己実現のための武器(手段)の一つなのだから。
未熟な自分が子育てをしていていいのだろうかという不安を感じながらも、子育てを通して自分の問題を再発見したり、自分の考えを整理できるのは面白いことです。子育てをしながら、自分も少しずつ親として人間として、成長していきたいと改めて思いました。