帰属先への愛着が自信と誇りを高める 
~『美しい国へ』安倍晋三氏~

目次

安倍元首相の事件

7月8日に安倍元総理大臣が銃撃され亡くなるという、衝撃的な事件が起きてしまいました。戦後最年少の52才で総理に就かれ、歴代最長の在任期間を務められた安倍さん。安倍さんに対する評価は大きく分かれますが、どんな政治家(人間)にも良い点と悪い点があります。また様々な要因により、掲げている理想や想いと異なる言動が必要になることもあるでしょう。悪い点や問題ばかりに目を向け批判していても、学びは少ないでしょう。

今回の事件をきっかけに安倍さんの考えのなかから共感する点を見つけ学ぶことで、安倍さんの供養にもなるのではという勝手な想いのもと、2006年に書かれた『美しい国へ』を読んでみました。

今回は本書籍を読んで私なりに学んだことや感じたことを、書き留めたいと思います。

 

安倍さんが世界のリーダーたちと対話できた理由

安倍さんは在任中、アメリカやロシアをはじめとした諸外国のリーダーたちと対話を重ねられました。これまで短期間で代わる歴代総理大臣と比べ長期政権で安定していたので、各国のリーダーたちが安心して継続的にコミュニケーションを取ることが出来ると感じられていたことが大きいのでしょう。ただそれだけでなく、安倍さんの姿勢にも世界から信用された要因を感じました。

この国に生まれ育ったのだから、わたしはこの国に自信を持って生きたい。そのためには、先輩たちが真剣に生きてきた時代に想いを馳せる必要があるのではないか。その時代に生きた国民の視点で、虚心に歴史を見つめ直してみる。それが自然であり、もっとも大切なことではないか。

美しい国へ 安倍晋三

海外で生活をしていると他国の人から日本のこと、日本人のことについて、色々と考えを聞かれることがあります。その時自分たちのことを卑下したり、極端にへりくだったりすると、相手から信用されなくなると感じています。自国に自信や誇りを持てない人は、自分が属するもの(国)を蔑ろにしている、どこか軽薄な印象に映るのではないでしょうか。

 

正しい保守の姿勢を持つことで、自国に自信を持とう

ではどうやって、自国に対して自信を持つことができるのでしょうか。安倍さんは書籍のなかで、保守の意味を以下のように説明されています。

保守というのは、イデオロギーではなく、日本及び日本人について考える姿勢のことだと思うからだ。現在と未来にたいしてはもちろん、過去に生きたひとたちに対しても責任をもつ。いいかえれば、百年、千年という、日本の長い歴史のなかで育まれ紡がれてきた伝統がなぜ守られてきたのかについて、プル―デントな認識を常にもち続けること、それこそが保守の精神ではないかと思っている。

美しい国へ 安倍晋三

私も以前ブログ『現状維持が保守ではない ~本当に守るモノはあるか? ~』で、保守というのは自分が本当に大切と思う国家や社会、価値観や文化を守っていくことと書きました。そして本当に大切と思うためには、安倍さんが書かれているようになぜ長い歴史のなかで紡がれてきた(なぜ守られてきた)のかを考えることが必要なのだと思います。

 

愛国心とは自分の帰属先を愛する自然な姿勢

日本で愛国心というと、未だ煙たがられたり、右翼的な印象を持たれることが多いように感じています。愛国心を過去の全てを賞賛したり、疑問を持たずに国(政府)の考えや指示に従ったりすることと捉えると否定的な印象になりますが、自分の帰属先を大切に思い、愛しむ姿勢と捉えると自然なことになるのではないでしょうか。

オリンピックやワールドカップなど日本代表としてスポーツで活躍される選手を例に挙げ、帰属意識について書かれていました。

日の丸の旗のもとに戦った者は、出身国がどこであろうと仲間であるという意識、それは共同体にたいする帰属意識、というよりほかにいいようがない。

美しい国へ 安倍晋三

 

家族愛や郷土愛の先に愛国心

ではどうやって、帰属先への愛着を深めていくのか。書籍では郷土愛の延長に愛国心があると書かれていました。

自分たちが生まれ育った郷土にたいするそうした素朴な愛着は、どこから生まれるのだろうか。すこし考えると、そうした感情とは、郷土が帰属している国の歴史や伝統、そして文化に接触しながらはぐくまれてきたことがわかる。とすれば、自分の帰属する場所とは、自らの国においてほかにない。(中略)

若者たちが、自分たちが生まれ育った国を自然に愛する気持ちをもつようになるには、教育の現場や地域で、まずは郷土愛をはぐくむことが必要だ。国に対する帰属意識は、その延長線上で醸成されるのではないだろうか。

美しい国へ 安倍晋三

また書籍の中で、家族の大切さについても触れられていました。個人が帰属する最小単位が家族であるので、家族愛を家庭で育むことが出発点となり、その延長線上に郷土愛、愛国心、そしてその更に先に世界や地球を大切にする思いが生まれるのだと思います。

 

先行者が担うべき役割

書籍の最後に、安倍さんが考える政治家の役割について書かれていました。

未来は不変のものではなく、みんなの努力によって創り出されていくのだということはわかっていても、一歩前に出ることを躊躇う若者は多い。とすれば、彼らに勇気をあたえ、何をすべきかを示す責任があるのは、ほかならぬ政治家なのではないだろうか。

美しい国へ 安倍晋三

これは政治家に限らず、子供に対する親、若手社員に対する先輩社員や経営者の役割でもあると思います。そしてこのような役割を果たすことにより、子供や若者に帰属意識が引き継がれていくのではないでしょうか。

若手社員が問題意識を持って何かに取り組む時、先輩社員達が否定したり足を引っ張ったりすると、若手社員は組織に対する帰属意識や愛着が生まれず離れてしまうでしょう。海外に移住する若者が増えていることも、同じことが原因の一つになっているのかもしれません。

 

大切な考え方や姿勢をしっかりと次の世代に引き継いでいく責任は、果たしたいと改めて感じました。