言葉の裏にある信念に耳を傾ける 
~衆院議員選挙から考えたこと~

第49回衆議院議員総選挙の投票日が迫っています。
情報化(デジタル化)に加えコロナ禍も相まって、ウェブを通して気軽に候補者の演説や候補者同士の討論を見ることが出来るようになりました。

様々な考えや主張を持つ候補者が立候補することは大切なのですが、候補者の話を聞いていると国政選挙であることを見失ってしまいます。

今回は衆院選で感じた疑問を、『個と公共のバランス』や『異文化コミュニケーション』の視点を中心に考えます。

 

衆院選は『国政』を担う国会議員を決める選挙

ウェブやメディアを通して候補者の演説を聞いていると、気になる主張がありました。

  • (地元の)XXX駅の混雑緩和を実現します
  • (地元の)〇〇市の保健所を復活させます
  • (地元の)△△商店街の活気を戻すためのコロナ対策を推進します

どれも地元有権者の生活に密着した問題で、候補者は地域の状況を理解されているのでしょう。
一方でこれらの問題に対応するのが、国政を担う国会議員の役割なのかという疑問を持ったからです。

  • 地方に似つかわしくない立派な空港は、〇〇先生(議員)が作らせた
  • XX先生(議員)の尽力で、地元の駅に電車(新幹線)が停車するようになった
  • △△先生(議員)がいたから、高速道路が我が町にも来た

一昔前には国会議員の地元への貢献実績を示すものとして、選挙戦の武器になっていました。
ただ本来国政とは一部地域の利益を実現する場ではなく、日本が国として独立し続けられるために高い視座に立って政策を行うことが求められているはずです。
地方自治体が外交安全保障に、独自で対応するのが困難なのは明らかでしょう。

国政と地方自治に求められる視座と対象テーマ

候補者が地域問題中心に話してしまうのは、有権者の衆議院議員に対する期待と国会議員の役割にギャップがあることも原因でしょう。
そのため我々有権者は、個人の利益(地元の問題解決)と国全体の利益のバランスをとりながら、候補者への期待を調整していくことが必要ではないでしょうか。

 

有権者と候補者の関係は『迎合』と『主従』を行ったり来たり?

今回の衆議院選挙の公約を見ていると、どの候補者や党も国民に迎合したご機嫌取りの姿勢が強まっているように感じます。
有権者と政治家の関係を見ていると、選挙中は政治家(候補者)が国民(有権者)にわかりやすい利益をもたらす政策を主張し(国民迎合)、選挙が終わると自分たちの想い(思惑)で国政を進めている(国民は政府に従う)ように見えます。

政治家には選挙に関係なく一貫して信念や主張を発信してもらい、国民は個人の利益だけでなく国全体の利益とのバランスを意識し政治を見る姿勢が必要なのでしょう。


国民(有権者)と政治家の関係性

 

統治者と被統治者の関係性

選挙期間以外、つまり大部分の期間において政府(国会議員)と国民の関係は統治者と被統治者の関係が強いように感じています。

本来被統治者は統治者に対して信頼や期待を持っており、それらが統治者の正統性にも繋がっています。
大学時代に法思想史の授業で国家が形成された背景は、『個人間の闘争状態を抑え安全を確保するために自己の権限の一部を統治者(国家)に移譲したこと』と習いました。

国家の成り立ち

そしてこの正統性が揺らぐと、被統治者は統治者を倒して新しい統治者を立てます。
これがヨーロッパにおける近代化を進めてきた、様々な革命です。
(封建領主、教会、貴族、王族など)

 

政府(国会議員)を本心から信頼したり、信念に共感している日本人は少ないでしょう。
ただ政府や政治家が信頼できないからと言って、クーデター(革命)は避けたいです。

ではどこから始めればよいのでしょうか。

 

不適切な主従関係から抜け出すには

前回のブログ『哲学がポストコロナの羅針盤 ~サンデル教授と福岡教授の対談から~』で紹介した、サンデル教授の言葉に、不適切な主従関係から抜け出すヒントがあります。

(マイケル・サンデル氏の発言)
昨今の政治、特に政治家の話を聞く際に問題なのは、私たちが聞く力を失ったことだと思います。
聞く力は偉大な市民的美徳の一つです。
相手が話している言葉を聞くだけでなく、その言葉の背後にある信念や論拠、思考を理解しようとすること。
民主的で充実した暮らしを望むなら、そうした市民的スキルを身につけなければなりません。

朝日地球会議2021 ポストコロナ時代の人類と社会〜いま考える「新しい知」より

選挙において候補者は、有権者が理解しやすい地元への貢献を中心に話をする傾向があります。
有権者がそのような話を求めれば求めるほど、候補者も本来国会議員として掲げたいビジョンや信念に根差した内容を話し辛くなります。

地元有権者に迎合したメッセージからは、サンデル教授が言う『信念や論拠、思考』を聞くことは困難でしょう。
有権者側が候補者に対して自身の信念にもとづく政策の話を求めれば、候補者は喜んで話してくれるはずです。
それが政治家を志した最上位目的のはずですから。

統治者と被統治者双方に不信感がある限り、迎合と主従関係の狭間から抜けることは難しいでしょう。

  

選挙期間にできる迷子へのお誘い

今回の選挙においては、コロナ対策が話題の大部分を占めています。
一方で多岐にわたるテーマも取り上げられています。

これらの話題は、当ブログで取り上げている『向き合うテーマ』の6つに集約されるとも言えます。

<6つの視点(向き合うテーマ)>
 1. 自然との共生
 2. 情報化
 3. 異文化コミュニケーション
 4. 個と公共
 5. 教育
 6. 文化と文明

『情報化』に伴いエネルギー消費量は増加することが予想されており、安定供給も求められます。
そのなかでどの様にしてエネルギー供給を実現していくか、『自然との共生』のなかで取りえる選択肢も限られてきています。

格差や価値観の違いなど『異文化間の調整(コミュニケーション)』には、個人一人一人の利益と社会全体の利益という『個と公共のバランス』を意識したうえで、あり方の議論が必要です。

6つの向き合うテーマも参考に、自分の関心のあるテーマや考え方(信念、価値観)を考える。
そして各候補者の主張に耳を傾け、自分との差異を確認しながら、信念/価値観に共感できる人を探すことが選挙の意義ではないでしょうか。

せっかくの国政選挙ですので、国の将来に想いを馳せる機会にしましょう。