様々な企業を研究するのは楽しいですし、自分探しのヒントにもなります。
よい会社の経営者には確固たる『信念』と、それを支える考え抜かれた『仕組み』があります。
また社員もそれぞれが『信念』を持っており、自律して働いているという特徴があります。
今回はコロナの影響を受けながらも成長を続ける、星野リゾートを取り上げます。
目次
経営にサイエンスを取り入れるための教科書
星野リゾートは星野佳路社長が自ら広告塔となりメディアに登場しているので、昔から気になっていました。
星野リゾート(星野社長)に興味を持った際に、初めに読んだのが『星野リゾートの教科書』でした。
企業経営は、経営者個人の資質に基づく「アート」の部分と、理論に基づく「サイエンス」の部分がある。
星野リゾートの教科書 中沢康彦
私は経営職に就いた当初から、自分にアーティステックな経営判断を行う資質があると思っていない。(省略)
私は自分の経営手法の中でサイエンスを取り入れる必要性を感じ、教科書を根拠とする経営始めた。
私が気になったのは、星野社長が「自分にアーティステックな経営判断を行う素質があると思っていない。」という点でした。
経営には、サイエンス視点とアート視点のバランスが大切だと言われています。
(クラフトの視点も必要と言われています)
アートの視点から自己の価値観や美意識に基づき『目指す理想(ビジョン/ゴール)』を描き、それを社員や関係者、顧客などの感性に訴えかけ共感を得る。
共感を形成した目指す理想に向け、サイエンスの視点から現状/課題を分析し、実現までの『手段』を論理的に考え、関係者に説明し実行する。
サイエンスの視点だけで経営を行えば、どの企業も同じ製品やサービスになってしまいます。
星野リゾートは差別化されたサービスにより顧客からの評価を得ているので、アート視点もしっかりされているはずだ。
拠り所となるしっかりとしたアート視点のもと、教科書を活用してサイエンス視点から実現に向けた経営を実直に行われているのでしょう。
星野社長の拠り所となる『信念』とは
星野社長の経営の拠り所となっているであろう信念についても、書かれていました。
自分が確実に残せるのは何か。星野社長は答えを探した。そして気付いた。
社員やその家族に対して、堂々とした姿勢を残せばいい。「星野リゾートの社員は、人生の大切な時間をこの会社で過ごし、そしていつか会社を去っていく。
星野リゾートの教科書 中沢康彦
そのときに『星野リゾートで過ごせてよかった、あの職場はとても幸せだった』と思ってもらえるようにしたい」。
これが星野社長の思いである。
星野社長が数多くの教科書(経営理論)を活用して実現しようとしているのは、『社員が幸せを感じられる職場』なのです。
そして社員が幸せを感じられる職場を実現する手段を多くの教科書から探し、見つけた方法が『エンパワーメント』だったのです。
社員の『信念』を見つけ環境を整える
星野社長が「自身の経営者人生で最も影響を受けた」、「今の星野リゾートはこの本がなければ存在しなかった」とまで言われているのが、『1分間エンパワーメント(ケン・ブランチャード)』です。
星野社長は監訳者あとがきとして、自身が行ってきた組織作り(エンパワーメントの旅路)を振り返っています。
スタッフに指摘されると感情的になる板長が、顧客に「美味しくない」と言われている結果を見た途端、意地になって改善を始めたのだ。
1分間エンパワーメント(ケン・ブランチャード)
当時、星野温泉旅館の社員は、会社に対する忠誠心はなく、誰も利益を高めようとは思っていなかったが、自分自身がサービスを提供しているお客様に満足してほしいという気持ちだけは持っていた。
それぞれ仕事のスキルに高低はあっても、どの社員も持っているこの気持ちこそが、経営者が信頼し活用すべき能力なのだと私は気づいた。
星野リゾートでは『サービス提供対象の顧客を満足させる』という社員の信念が、基盤となっている。
そして社員が信念に基づき働けるように、エンパワーメントに必要な仕組みが教科書に基づいて構築されているのです。
星野リゾートの特徴によく挙がる『フラットな組織文化』も、エンパワーメントを進めるなかで築かれてきたものなのです。
経営者や社員一人一人が持つ信念は働く目的であり、モチベーションの源泉になっています。
これらは一人一人の感性や共感から形成されており、アートの視点(感性/共感)が必要です。
一方信念を実現するために構築する会社の仕組みには、サイエンスの視点(論理性)が重要です。
経営者と社員の信念が繋がり、高い顧客満足を実現
経営者と社員一人一人の信念を大切にしながら、教科書を活用することによりサイエンスの視点も取り入れる。
アートとサイエンスのバランスを上手くとりながら、経営をされているのが星野リゾートの特徴の一つではないかと感じました。
<経営者>
・目的(アート): 幸せな職場作り(社員の幸せ)
・手段(サイエンス): 様々な教科書や理論
<社員>
・目的(アート): サービスを提供する顧客の満足
・手段(サイエンス): 自律して働ける環境/仕組み(エンパワーメント組織)
多くの企業では手段(サイエンス)ばかりに注目して取り組んでいるケースも見られますが、このような場合上手く行くまであきらめずやり続けることができず、失敗してしまう傾向が強いです。
その根本原因は、何のために行うのかという目的(信念)が不明確だからでしょう。
自分の信念を再確認しよう
仕事に対する捉え方が、ますます多様化しています。
人生の多くを費やす仕事を、生活の糧を得るためだけと割り切るのは余りにももったいないです。
働く目的は何なのか、自分の信念を再確認することが充実した人生にもつながります。
世の中の流行は、分かりやすい手段に関する情報で溢れています。
(How to本、スキル/知識偏重の研修、DXやシステム関連のニュース 等)
また日本の教育や会社のなかで自分の信念を考える機会は、残念ながら少ないように感じています。
ただ意識さえすれば、自分の信念を考えるヒントは溢れています。
今回紹介したように企業研究を通して、様々な経営者や社員の信念に触れることができます。
また日本人選手の活躍で注目されているオリンピックも、競技観戦を通して選手一人一人の信念に触れることができます。
様々な本を通して、偉大な作者や哲学者の思想に触れることもできるでしょう。
色々な人の信念に触れながら自分が共感するものを探すことにより、自分の信念を少しずつ明確にしていくことができます。